「脱常識の世界史」

脱常識の世界史

2009年10月15日(木)

人類は環境問題から逃れられない

はるか古代からあった森林の大規模伐採と再生可能エネルギーの限界

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 人間以外の動物の生活は、当然のことながら、食物から得る熱エネルギーが、利用エネルギーのすべてである。体内に摂取した食物の分解熱によって、細胞の低エントロピー状態(秩序)を保ち、生命活動で増大するエントロピー(拡散された無秩序・汚れ、すなわち排泄物や廃熱)を体外に捨てて活動を行っている。夏に熱中症で死ぬというのは、外部気温が上昇して廃熱できなくなった、すなわちエントロピーの流れを維持できなくなったということである。

 生命というのは、ノーベル化学賞を受賞したプリゴジンの言う「散逸構造」(物質やエネルギー/エントロピーの流れの中にのみ存在し得る渦などの一時的な構造:例えば台風など。動的平衡とも表現される)そのものであり、エネルギーの流れが止まると細胞内のエントロピー(無秩序)が増大して死んでしまう。高度に秩序化された大人口社会システムも散逸構造であり、低エントロピーのエネルギーを外部から注入し続けないと、たちまち崩壊してしまう。

工業化、技術革新とはエネルギー源の低エントロピー化

 産業革命前の狩猟採集社会や農業社会という伝統社会では、1人当たりのエネルギー消費、例えば薪炭による炊事・暖房・鉄器/土器製造、牛馬による農耕・土木工事、水車・風車による脱穀等を含めたエネルギー使用量は、食物自体を含めて食事で得るエネルギーの2〜3倍レベルであり、このレベルが概ね普遍的、かつ長期不変であった。

 産業革命でこれが、食事で得るエネルギーの5〜10倍、すなわち伝統社会の3〜4倍に急増している。しかも、比較的高エントロピーの薪炭等から、低エントロピーの石炭にエネルギー源が革命的に変化している。これが産業革命の本質であり、社会自体も生命体のように高度に秩序化されたシステム、すなわち高度な散逸構造になった。

 工業化、技術革新とは、本質的に1人当たりエネルギーの多消費化であり、同時にエネルギー源の低エントロピー化という事である。エネルギーの問題は、カロリーやジュールといった単位で示されるエネルギーの量だけでなく、エントロピー値で表されるようなエネルギーの質の両面を考える必要がある。単にエネルギー量が多いだけでは、役に立たない。例えば、体育館内の25度の空気は、大量のエネルギー(カロリー)を持っているが、エントロピー値が高くて何の役にも立たない。

人口よりエネルギー消費量の増加率の方が大きい現在

 現代の日本は、1人当たり食事エネルギーの約40倍のエネルギーを消費して生活しており、米国はなんと100倍の生活である。現在、日本でも世界でも、エネルギー消費の9割以上が、低エントロピー源、すなわち高効率・高温の石油、石炭、天然ガス等の化石燃料と、原子力である。

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著者プロフィール

石井 彰(いしい・あきら)

石油天然ガス・金属鉱物資源機構首席エコノミスト(石油・天然ガス)。1974年上智大学法学部卒業。日本経済新聞社を経て、石油公団にて1970年代後半から石油・天然ガス(LNG)開発関連業務、1980年代末から国際石油・天然ガス動向調査・分析に従事。その間、ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所長などを歴任。著書に『世界を動かす石油戦略』、『21世紀のエネルギー・ベストミックス』、『エネルギー:今そこにある危機』、『石油 もう一つの危機』、『天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学』ほか。


このコラムについて

脱常識の世界史

人類の歴史は、究極的に人口とエネルギー源という、2つの要素の変動に駆動されているのではないか。産業革命も、その後の経済成長・変動も、戦争や革命や自爆テロも、人口とエネルギー源の量的・質的変動の観点から見てみると、通常学校で習ったり、新聞・テレビ等で解説されたりする姿と随分と違って見える。人口動態とエネルギー源の変遷が、どのように世界史の動きに絡んでいるのか。これは新たな視点の文明理解、歴史解釈であり、地球環境問題が深刻化している現在、一石を投じる意味があるものと確信している。

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