「奥深き日本」

世界一薄い和紙が修復する父子の“絆”

「近ごろは自殺者が増えていますが、当時、苦境の私を救ってくださったのは3軒の紙問屋でした」

  • 宮嶋 康彦

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2009年10月2日(金)

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 1台の日産キャラバンが国道32号線を走っている。満載された和紙の上に布団が敷かれ、5歳の長男と2歳になる長女が寝転がって車窓をながめている。運転している父親は祖父から受け継いだ和紙屋の主人。土佐を夜中に出発して鳥取の紙問屋へ注文和紙を届けに行くところだ。

 今日の話は、この父子が主人公である。父は今年66歳、長男は40歳になる。

ひだか和紙の鎮西父子 (写真:宮嶋康彦、以下同)
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 世界で最も薄い和紙に触れた。1平方メートルあたりの重さは3.5グラム。超極薄の典具帖紙(てんぐじょうし)、土佐で発達した極めて薄く強靭な紙でタイプライター用などに利用されてきた和紙である。手に取った感触では重さが感じられない。新聞紙に被せてみれば、鮮明に文字を読むことができる。

 純白に漂白された紙だが塩素を使用しない独自の製法で漉かれている。そのために経年の酸性劣化が起こりにくいという特質を持っている。この特性に注目したのは文化財や美術品を修復する関係者だった。

ひだか和紙の技術の粋を込めて機械漉きされた極薄の紙は1平方メートル当たり3.5グラム
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漂白された楮が植物の繊維にとなり、最終工程に入れられる
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極薄の和紙に飛びついた国立公文書館

 超極薄の典具帖紙を開発したのは、日本に名だたる土佐和紙の産地の一つである高知県高岡郡日高村の、ひだか和紙。同社は昭和44年から紙漉きの機械を導入し、掛け軸の裏打ち紙、ちぎり絵やラッピング、表具用の紙などの原紙をOEM(相手ブランド先による生産)してきた。専務で後継者の鎮西寛旨(ひろよし)さんが言う。

灰ソーダで煮出された楮、純白になって紙に近づく
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 「自分たちが漉いた紙がどこで、どのように使われているのか知りたくなります、一時の興味ではなく、より仕事に誇りを持つためです」

 OEMの慣例を曲げて、問屋筋に教えを乞うてみた。すると、古文書や古書、木造仏・神像の修復に使われていることがわかった。修復を施してまで保存をしなければならない重要な文化財であれば、紙質が問われる。従来の塩素を使用した製法では、和紙はやがて酸化し、紙の繊維が破壊される。ひだか和紙では経済産業省の助成を受けて、塩素を使わない漂白方法を探り当てた。

漉き桁に入る前の和紙の原料は触れると実に滑らか
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 「今年6月に岡山県倉敷市で開催された、文化財保存修復学会にブースを出させていただきまして、そこでまたとない方に声をかけていただきました」

 鎮西さんに声をかけたのは国立公文書館の修復専門員、阿久津智広さんだった。1平方メートルあたり3.5グラムという薄さに驚いた阿久津さんは、サンプルを東京に持ち帰り、上司に報告。修復係長の有友至氏は、さっそく、ひだか和紙の鎮西さんに連絡を取った。


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