「脱常識の世界史」

先進国ではなぜ、少子化するのか

“理想の”狩猟採集生活に戻ろうとしている現代人

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2009年10月29日(木)

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 既に述べたように、英国でも他の国でも産業革命後まず死亡率が低下し、その後100年〜数十年たって今度は出生率が下がり始める。現在、大方の先進諸国では、出生率は人口維持水準以下の2.0未満である。死亡率がなぜ下がったのかは既に説明したが、ではなぜ出生率が遅れて大きく下がったのだろうか?

 「戦国時代は寒冷化による食料争奪サバイバル戦争だった」で紹介したトッドは、女性識字率50%超が出生率低下の分水嶺としているが、具体的理由については様々な理論が言われている。幼児死亡率が下がったので、親が老後の保険としての子供を多く必要としなくなったことや、都市化による生活環境や家族観の変化など、どれもそれなりに説得力があるが、特にここ半世紀ほどの先進諸国における出生率2.0を大きく下回る極端な低下に関しては、ノーベル賞経済学者G・ベッカー等のミクロ経済理論による説明が説得力がある。

子供は数でなく「質」が問題となる

 高所得で経済成長が恒常的にある社会では、子供の育成に膨大なコストがかかり、それと親の消費水準とのバランスという合理的選択で子供の数が決まるとされる。高所得で経済成長する社会では、労働者の資本装備率、すなわち労働者一人当たりの機械設備などが高くならなければならない。

 そうなると将来の子供の消費水準を維持・向上させるためには、高度な資本装備を操作・利用できるようにするための教育に、膨大な金銭的および時間的コストがかからざるを得ない。そうなると、現在の親の生活水準を維持する必要から出生率が下がる。

 要するに、子供は数ではなくて質が問題となる。高度な教育を必要としない単純労働と、それを必要とする頭脳労働では付加価値がどんどん開き、賃金水準に大きな格差ができるため、親にとって子供の教育が最重要課題になるからだ。

 統計では、世界各国の一人当たり所得が高いと出生率が低いという逆相関関係は明確であり、一人当たりの経済成長率が高いと、人口増加率が低くなるという緩い逆相関関係も認められる。

ますますエネルギー多消費型へ

 極端な少子化の主な原因である高い労働装備率、すなわち高度人的資本化は、エネルギー多消費ということとほぼイコールである。高度な労働装備とは、大規模な機械・設備とほぼ同義であり、それを製造・設置するのにも、それを稼働させるのにも膨大な物理的エネルギー投入が必要であるからである。

 ITのように膨大なエネルギーを直接投入しない「装備」も、その制作に人間の手間が膨大にかかるのであれば、それにかかる技術者が生活で消費している物・サービスに必要なエネルギー消費もカウントしなければならない。

 従って、設備・装備がハードウエアかソフトウエアかは本質的問題ではなく、単にエネルギー消費が直接的か間接的かの違いに過ぎない。ソフトウエアとは大方、エネルギーを多消費する機械・設備を製造・操作・調整するためのノウハウであり、大規模エネルギー消費を前提にしている。

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著者プロフィール

石井 彰(いしい・あきら)

エネルギー・環境問題研究所代表、石油天然ガス・金属鉱物資源機構特別顧問、早稲田大学非常勤講師。1974年上智大学法学部卒業。日本経済新聞社を経て、石油公団にて1970年代後半から石油・天然ガス(LNG)開発関連業 務、1980年代末から国際石油・天然ガス動向調査・分析に従事。その間、ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所長などを歴任。著書に『世界を動かす石油戦略』、『21世紀のエネルギー・ベストミックス』、『エネルギー:今そこにある危機』、『石油 もう一つの危機』、『天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学』ほか。



このコラムについて

脱常識の世界史

人類の歴史は、究極的に人口とエネルギー源という、2つの要素の変動に駆動されているのではないか。産業革命も、その後の経済成長・変動も、戦争や革命や自爆テロも、人口とエネルギー源の量的・質的変動の観点から見てみると、通常学校で習ったり、新聞・テレビ等で解説されたりする姿と随分と違って見える。人口動態とエネルギー源の変遷が、どのように世界史の動きに絡んでいるのか。これは新たな視点の文明理解、歴史解釈であり、地球環境問題が深刻化している現在、一石を投じる意味があるものと確信している。

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