「時事深層」

新政権の「劇薬」に市場の洗礼

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2009年10月5日(月)

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 鳩山由紀夫首相の華々しい外交デビューの裏で、政権の足元が揺さぶられ始めた。債務の返済猶予(モラトリアム)や円売り介入否定発言が、円高・株安の引き金を引いた。新政権が投じた「劇薬」政策には副作用もある。問われたのは市場との対話力だ。

 「こればっかりは何とも言えないよ…」。ある民主党幹部は苦笑いする。話題は亀井静香郵政・金融相がぶち上げた「債務の返済猶予(モラトリアム)」。同相は9月27日のテレビ番組で金利の支払い猶予まで「視野にある」と発言するなど前のめり気味だが、民主党内では「本当に実現するつもりなのか」という雰囲気が流れる。

 このモラトリアム制度は亀井氏が代表の国民新党にとっては何も目新しいものではない。野党だった昨年11月には中小企業や自営業者などに対し、融資の返済を最長で3年間は猶予するとの法案の骨子をまとめていたからだ。実際、その後は参議院で統一会派を組む民主党と協議したうえで、債務の返済期限延長などに金融機関が柔軟に応じるよう求めた法案を議員立法で提出した実績まである。

「本当に実現するつもりか」

 民主党と国民新党、社民党による連立政権が発足したことで、この時のアイデアが蒸し返された。しかも亀井氏が金融相となったことで一気に現実味を帯びてきた。しかし、借りたお金をしばらく返さなくてもいいという大胆なアイデアには、借り手の中小企業も疑心暗鬼になっている。

 長野県で太陽光発電の機器を売る中小企業の経営者は、「仮に制度ができても金融機関に『ぜひ利用してほしい』と言われない限り使えない」と語る。返済の延期を求めれば企業の信用が下がり、新規の融資を含めたこれからの金融機関とのつき合いに不安が出る。

 金融機関の反応も様々だ。ある信用金庫の幹部は「返済を延ばしている間も金利がきちんと入るのならば、別にいいのでは」と話す。だが通常、返済期限を延ばした取引先は査定を見直さなければならず、多くが不良債権か、その予備軍となる。今回の制度で査定の見直しを求められるとしたら「それこそ論外」とこの幹部は語る。

 昨秋以来の急激な景気悪化で受注が半分以下に減ったような中小企業は多い。こうした企業の返済が一時的に滞っても不良債権に分類されないように、金融庁は昨年11月、金融検査マニュアルを改定し、経営を5年以内に確実に回復できる中小企業の債権について、金融機関が査定を下げずに返済を延期しやすくした。亀井金融相が提唱する制度に考え方は近い。

 植木鉢のデザイン・製造を手がける「カヴァーズ エヌユー」(千葉県四街道市)の伊東美惠子社長は「債務の返済に充てていた資金を製品開発や知的財産権の申請に使いたい」と考え、マニュアル改定を機に貸し出し条件の変更を試みたことがある。だが相談した金融機関のある関係者は「条件を変えると、次の借り入れが難しくなる」。貸し出し条件の変更は、これほど神経質な問題だ。

 「景気が最悪期を脱した時になぜ導入するのか。新銀行東京を創設した時に似ている」と、不振企業を延命させるだけ、と心配する信金幹部までいる。

 亀井金融相は「劇薬」で何を狙っているのか。ある国民新党の関係者によると「要は『貸し渋り』がうわさされるお行儀の悪い金融機関の姿勢を正したいということ。信金などに大きな問題はない」。亀井金融相の視線の先にあるのはメガバンクだと示唆する。

 そのメガバンクが株安に見舞われている。日経平均株価が一時1万円を割り込んだ9月28日には、東京証券取引所が算出する銀行業の株価指数が141.49と、終値では3月16日以来の安値となった。野村ホールディングスが9月24日に発表した最大約5000億円の公募増資で金融株の需給悪化が懸念されたうえに、「亀井金融相の発言が金融株の下げを助長した」(クレディ・スイス証券の伊奈伸一アナリスト)。

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著者プロフィール

加藤 修平(かとう・しゅうへい)

日経ビジネス記者。日本経済新聞社に入社後、大阪経済部、東京産業部、東京経済部を経て2009年4月より日経ビジネス記者。



このコラムについて

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日経ビジネス “ここさえ読めば毎週のニュースの本質がわかる”―ニュース連動の解説記事。日経ビジネス編集部が、景気、業界再編の動きから最新マーケティング動向やヒット商品まで幅広くウォッチ。

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