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「偶然任せ」の社会が得た知恵

秋田県大潟村が体現する「垂直」から「水平」(その3)

2009年10月23日(金)

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 1960年代の後半にはコメの生産量は供給量を上回り、財界からもコメの生産抑制など食管制度の改革を要求する声が出始める。こうして大規模化どころか、水田はむしろ多すぎると考えられるようになる。それに応えて政府は作付け転換補償、開田抑制政策を始めた。日本の戦後農政は、こうして第2の転換点を迎える。

 大潟村はこうした転換点を迎えてもすぐには軌道修正が効かず、結局、第4次まで毎年入植者を募り続ける。結果として総計580戸の入植者は、農業を巡る歴史転換の中に投げ出される。そして大潟村と国の関係がねじれ始める――。

 1973年に入植者償還金の支払いが始まる。当時の1次入植者の平均年収は780万円。そのうち200万円を土地や住宅の代金として分割償還する必要があり、生活は楽ではなかった。そうした状況にある意味で便乗したのか――、事業団は突然、入植を再開して第5次入植者を迎え、同時に5次入植者の配分を15ヘクタールに増加し、既存農家にも不公平のないように5ヘクタールの追加配分を決めた。

畑作への転換を迫られるが・・・

 土地が増えれば収益が増える勘定となり、背に腹は代えられない農家は反対しにくい。

 しかしそこには条件があり、「15ヘクタールになった農地の半分は畑作転換をしろ」という。水田に関しては10ヘクタールが7.5ヘクタールになるので、結果的に25%の減反になる。しかも減反政策へと政府方針が変わり、入植事業を持続できなかったために残った遊休地の処分も5ヘクタールの追加配当でできてしまう。

 官僚たちにしてみれば、農政の変化を先見できずに大規模な入植事業を進めてしまった自分たちの見込みの甘さを隠蔽できる巧みな方法だった。

 しかし大潟村の場合、畑作への転作はほかの地域より難しかった。周囲の湖面の方が水位が高い大潟村では、水の取り入れは楽だ。周囲の堤防に設けられている取水口の水門を開けば高低差があるので水は勢いよく流れ込む。

 しかし逆に、一度入った水を出すのは難しい。大潟村の中には背骨のように幹線排水路が貫いているが、ここに向けて排水を行う水路が縦横に巡らされている。その最初の水路として、農地の地下には暗渠(あんきょ)が張り巡らせられている。

 だが一度にあまり多くを排出すると、幹線排水路に流れ込む水量が増え、堤防外の残存湖に水を戻すポンプの能力を超えてしまうので、暗渠は農地からの排水を受け持ちつつも、一定量以上は流さない役割も与えられており、「流出抑制暗渠」と呼ばれる。

 そのため、もし雨が降って水が一時的に過剰になれば農地に水が残る。これは水田耕作を前提とした設計であり、水田に一時的な貯水機能を委ねている。大潟村は農家の生活面も含め、すべてが稲の栽培収穫を効率的に行うことを目指して作られた巨大な生産装置だった。

 1つの目的に向けて効率的に設計された「工場」が目的以外の用途への転用に苦労するのと同じく、大潟村も想定外の畑作を行うには無理があった。排出抑制暗渠は雨が降れば畑に水を残し、生育にダメージを与えた。結果的に畑作は他の地域の畑以上に気候条件に大きく左右されたし、農地自体が広大なので作物を集中的に出荷すると価格下落の恐れがあった。

 こうして5ヘクタール分農地が増えたのはいいが、「畑作の付帯義務化は困る」と気づいた農家は水稲耕作に戻りたいと考え、実際に強行突破を計るようになる。農林省は当然それを認められない。大量の零細農家は大事な票田とみなされて守られたが、票田として数えると票数の少ない大潟村の少数の大規模農地の農民への締め付けは徹底された。

 そして過剰作付分に関して1975年から「青刈り」を命じることとなる。刈り入れ前の稲を刈り取って始末しろということだ。

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