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環境の変化に耐えてしまう強さ

イネゲノムと「中部125号」「浮きイネ」(その2)

2009年11月18日(水)

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 追い風も吹いていた。愛知県農業総合試験場主任研究員の坂紀邦氏が研究に当たっていた時期は、イネゲノムの全解析が達成された時期でもあった。1991年から開始されたイネゲノムプロジェクトは2004年12月にすべての塩基配列の解読が終了した。

 「以前はマーカーを使うとしても、大雑把にしか使えなかったが、イネの全塩基配列が解読できて遺伝子の状態が分かったので、(イモチ病抵抗性を発揮する遺伝子である)pi21がどんな塩基配列なのかも分かった。結果としてより細かくDNAマーカーが使えるようになって、イモチ病抵抗性と食味の連鎖を切れた」と坂氏が言う。

 イモチ病抵抗性のあり方についても、研究が進んだ。pi21は陸稲にも水稲にもあると前回述べたが、比較のために逆に水稲のpi21を陸稲に入れる試験を行うと、むしろイモチ病に弱くなる。

 こうした実験などを総合した結果、分かってきたのは、pi21は通常イモチ病抵抗性をむしろ抑える機能を持っており、陸稲のpi21の方がその機能を欠損しているということ。陸稲のpi21を水稲に持たせるのは、イモチ病への「強さ」を付与するのではなく、むしろ「弱さ」を失わせることだった。

 こうして分子生物学の知見を踏まえて坂氏らはイモチ病抵抗性イネの特質を明らかにし、DNAマーカーをより高精度で用いることで、従来とは一線を画した品種改良に踏み出しつつある。それは確かに高度なバイオテクノロジーではあるが、遺伝子組み換えではない。

 遺伝子組み換え作物とはベクター(運び屋)と呼ばれるウィルスを利用して人工的に新たな遺伝子を導入して発現させたり、内在性の遺伝子の発現を促進・抑制したりすることにより、新たな形質が付与された作物である。

コメは品種改良の歴史

 中部125号を育種するうえで、こうした遺伝子組み換え技術は一切使われていない。坂氏たちのグループは、実際に閉鎖系の実験室の中で、コシヒカリの中に陸稲型pi21遺伝子を組み込んで、イモチ病に感染させる実験もしている。しかし、それは中部125号の開発とは全く別の実験であり、実験結果は参照されて役立てられているが、中部125号はあくまでも古くからある交雑と育種によって作られた新品種だ。

 交雑と育種は、自然環境の中でも行われる。自然に交雑がなされ、特定の形質を持つ新種が作られる。それが環境にマッチしていれば、ほかの種が滅びた後にも生き残ることがあるだろう。

 人類の農業はそれと同じ作業を、偶然と環境に任せるのではなく、人為的にこなした。交雑の結果、育てやすい品種、収量が多かったり食味が良かったりする品種など、いわゆるメリットのある種を選び出し、好んで育ててきた。

 例えば、日本人はイネの作付け可能地域を北上させるべく努力をしてきた。

 佐々木多喜雄『北のイネ 品種改良』(北海道出版センター、2003年)によると、北海道に移住して開拓に当たった農民たちは郷里から持参した多様な品種の中から少しでも寒さに強く、実りの良いものを選ぼうとした。渡島地区では1861年に「早稲」「四十日早稲」「米山糯」「会津早稲」「沢田早稲」「宝早稲」などが試されたという。こうした品種移入が広まり、自然交配利用育種の結果、「井越早稲」(1893年に桧山郡泊村の井越和吉が育成)などの地方種が作られていく。

 ほかにも1873年に広島村の中山久蔵が試作に成功し、一時は北海道全体の稲作面積の80%で育てられたとされる「赤毛」から、江頭庄三郎が1895年に一株二穂になるものを選んで育種した「坊主」を作り出している。この「坊主」は早生種で「赤毛」よりもイモチ病に強く、多収であり、また無芒種(花の外側の穎[えい]の先端にある針状の突起=芒がない)で、当時考案され始めていたたこ足式直播器の利用にも便利だったため、北海道委中央部の水田地帯を急速に拡張させ、1930年には宗谷にまで開田が及んでいる。

 こうした北海道の稲作北限の上昇は、品種改良が稲作地域を新たに拡大し、農業共同体を広げていった端的な例だ。農業共同体が新しい品種を望み、時間をかけて品種改良でそれを作りだし、新しい品種が新しい農業共同体を育む。

 そうした構図は、バイオテクノロジーが応用可能になった今でも変わらない。バイオテクノロジーはDNAマーカーの高精度な利用などにより品種改良の作業をよりシュアーなものにした。しかしそんな最新の品種改良で生まれた新種のコメの味を、最後は「仲間たち」が舌を使って確認する。炊きあげられたあるコメの状態を良いと感じ、その味を良いと感じる、それは同じ感性、同じ価値観を持つ共同体の存在が前提とされている。そこでも品種改良を支えているのは共同体なのだ。

コメント1件コメント/レビュー

白米は必須アミノ酸にバランスが悪く、アミノ酸スコアは65程度である。特にリジンが少ない。米の品種改良は味を追及するあまり、栄養学的な観念から離脱し、タンパク質含有量を極限まで減らす努力を続けている飢餓に対抗する為に、味の追求ではなく、アミノ酸スコアの改善に力を注いで欲しい。(2009/11/18)

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白米は必須アミノ酸にバランスが悪く、アミノ酸スコアは65程度である。特にリジンが少ない。米の品種改良は味を追及するあまり、栄養学的な観念から離脱し、タンパク質含有量を極限まで減らす努力を続けている飢餓に対抗する為に、味の追求ではなく、アミノ酸スコアの改善に力を注いで欲しい。(2009/11/18)

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