排出権取引(排出量取引とも呼ばれる)に対して「現代の免罪符」、「悪をお金で買う」、「欧米金融機関のマネーゲーム」といった反応をする人々が多い。こうした反応の多くは排出権の仕組みに対する先入感や誤解から来ている。また「排出権に頼らず自国の温室効果ガス削減努力をすべき」という主張はもっともだが、排出権取引を全面的に排除するというのであれば疑問符が付く。
排出権取引の現場は苦労話のオンパレード
そもそも排出権はどこから生じているのか?
その多くは、発展途上国における様々な温室効果ガス削減事業によって産み出されている。例を挙げると、中国における風力発電事業、マレーシアにおけるパーム椰子房を利用した発電事業、インドのアンモニア製造プラント改良による蒸気消費量削減事業、ブラジルのゴミ処分場のメタンガス回収・発電事業、韓国の硝酸工場のN2O(亜酸化窒素)破壊事業、ベトナムの油田の随伴ガス回収事業といったプロジェクトだ。これらが国連によって承認され、削減量に応じた排出権が発行され、国連と各国が運営する電子登録簿の中で保管・売買されている。
案件実施には様々な苦労が伴う。マレーシアで豚の糞尿からメタンガスを回収し発電する事業をやるため、養豚村の長老と一緒に、農家に豚の糞尿を定期的に提供してくれるよう説得して歩くが、糞尿から生じる排出権が金になると分かると急に金を寄越せと言われるとか、中国の山奥に車で10時間も走って行き、雪どけ水が流れる水力発電所の建設現場で苦心惨憺して資機材を運搬して事業を立ち上げるとか、合意したはずの事柄を何度も蒸し返してくる中国人との議論に疲労困憊して商社の女性社員が倒れ病院で点滴を受けたとか、二酸化炭素の地中貯留の方法論を提案したが、排出権価格下落による自国の収入減を嫌う国連CDM理事会のブラジル人理事に強硬に反対されて進まないといったエピソードのオンパレードである。この辺の事情は、今般上梓した『排出権商人』(講談社刊)に詳しく書いた。
京都議定書は、先進締約国(41の国と地域)に対して温室効果ガス削減目標を負わせる一方で、海外から排出権を購入して補ってもよいという柔軟措置を設けた。これが「京都メカニズム」と呼ばれるもので、(1) CDM(Clean Development Mechanism=クリーン開発メカニズム)、(2) JI(Joint Implementation=共同実施)、(3) 排出権取引の3つである。
CDMとJIは、外国で温室効果ガス削減事業を行い、プロジェクトが存在しない場合(これを「ベースライン」と呼ぶ)に比べて、温室効果ガスの排出量が削減されたと認められると、国連によって排出権が与えられる仕組みである。CDMは京都議定書で削減義務を負っていない国(発展途上国)で行われる事業、JIは削減義務を負っている国(先進国)で行われる事業である。
3番目の排出権取引は、CDMやJIによって産み出された排出権や自国の排出枠に余裕のある国の余剰排出権(排出枠)を売買することである。
日本企業(電力会社や鉄鋼会社)が購入している排出権の多くはCDMによって産み出されたものだ。プロジェクトの数や排出削減量で見るとCDMはJIの15〜20倍ある。
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