「先細る魚大国ニッポン」

ガンギエイを食べたことがありますか?

漁師も消費者も知らない魚の価値

  • 中西 未紀

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2009年11月25日(水)

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(前回「うまい魚が、食卓でなく、海に流れる」から読む)

 「今日は『ガンギエイ』が入ってないんですよ。海の都合があるもんで、すみません」

 料理人・平原成二の言葉に少し落胆する客を眺めながら、これこそが日本料理店「味彩せいじ」(東京都港区)だと納得してしまう。

 千葉県で揚がるというガンギエイは、地元の人にはおいしいと評判の白身魚だ。煮付けやから揚げにすると、脂が乗ってもっちりとした身に、淡泊な旨みがぎゅっと封じ込められる。

 もっとも一般には知名度が低いため、築地の魚市場などでは扱われておらず、漁師もあえて獲ろうとしない。たまたま網に引っかかることがある――。

 そんなガンギエイだが、1度食べたら、その味は忘れることができない。その日に揚がった魚介類を漁港から直送で仕入れる味彩せいじならではの食材の1つだ。

 まさに店の看板とも言える魚だが、この日は置いていなかった。実は、千葉方面の海が大しけで、漁師が船を出せなかったのだという。残念だが、事情を知れば、食べられないのは当然のことに思える。そして、いつしか、こうした当たり前の感覚を忘れていたような気もする。

「漁師だから、いい時も悪い時もある」

 今から1カ月ほど前、平原はガンギエイが揚がる千葉県の飯岡漁港にいた。有名な九十九里浜のすぐ脇にある、小さな漁港だ。目の前にはどこまでも広がる太平洋、後方には田畑が広がり、自給自足も叶いそうな土地である。

 「漁港は入り江になっていたり湾になっていたりすることが多いから、こんなふうに海が見渡せる景色って、実は珍しいんですよ」

 案内人はZEN風土(東京都港区)の社長、増田剛。ZEN風土は、平原の仕入れ先である。

 増田は一流通業者の枠を超え、漁業の現場をあまり目の当たりにしたことのない料理人たちを積極的に港へ案内している。これまでに平原も、増田と一緒にいくつかの漁港を訪れていた。

 「この間も伊豆半島の下田漁港へ行った時、キンメダイにもこんなに種類があるんだと初めて知りました」

 長く鮨職人としての経験がある平原にとっても、まだまだ現地での発見は多いという。そこでまた、新しい素材、新しい食が見いだされれば、ZEN風土としても願ったり、である。

 午前10時頃、明け方近くに出港した船が続々と帰ってきた。その中に遠藤勝信が乗る「第3不動丸」の姿も見える。

 「今日はベタ凪だよ。一番悪い時に来たねぇ」

不動丸を操る漁師の遠藤勝信氏。「夏は冷水器を使うなど、魚の取り扱いには細心の注意を払って、鮮度を保っている」と話す
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 今日は海が穏やかで良かったと安心するのは素人のみ。こんな日は魚も動かず、漁師にとってはあまり望ましくない状況らしい。さらに、ここ数週間、エチゼンクラゲの被害が出ているという。大きいものは2メートルにも達するエチゼンクラゲは、毒を持つだけでなく、網にかかった分だけ魚が入らなくなる。漁師にとっては天敵とも言える存在だ。近年になって被害が多くなっており、一説には温暖化の影響などもあるとされている。

 船が岸に着くと、獲れた魚介は種類ごとに箱に入れられ、すぐ目の前の市場へ運ばれていく。バタバタと活きの良さそうなヒラメは、真っ白な腹を見せている。腹が白いのは、天然の証だ。養殖のヒラメであれば黒い斑点ができ、稚魚を放流して帰ってきた放流ヒラメにも一部斑点が出る。大きなイセエビ、味はズワイガニにもひけをとらないというワタリガニも何箱か運ばれていくが、通常はこんなものではないらしい。


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