「シアワセのものさし」

企業の成長とは、地域の再生とは・・・ホンモノみせた「四万十ドラマ」

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2009年11月27日(金)

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 「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」「藁焼き鰹たたき」「島じゃ常識 さざえカレー」など、数多くの地域ブランドを送り出したグラフィックデザイナー、梅原真。彼の関わるプロジェクトが成功を収める要因は、商品に色濃く反映されている「土地の遺伝子」と商品自身が放つ「地域のアイデンティティ」にあった。この2つの要素がトリガーとなり、消費者のコミュニケーションスイッチが入るということだ。

 今回はもう一歩、話を進めてアイデンティティと企業経営について述べる。題材は梅原の代表作、四万十ドラマ。ちっぽけな第三セクターだった四万十ドラマがコミュニティビジネスの先駆者に変貌したのは梅原の果たした役割が少なくなかった。四万十ドラマの軌跡を見れば、企業の成長には何が必要なのか、本質的なことがわかるのではないだろうか。


(日経ビジネス オンライン、篠原匡)
梅原デザインのあしあと

 高知県西部をくねくねと蛇行する四万十川を常に左に見ながら走る国道がある。国道381号線。四万十川の上流域に位置する窪川を起点とし、大正、十和、西土佐の各集落を経て、南予の中心地、宇和島に抜ける国道である。

 その風景は美しい。雄大な四万十川の眺めはもちろんのこと、車窓に映る沈下橋、小舟を浮かべる川漁師、秋の田を彩るはざかけ、川べりに点在する集落――。走るだけで四万十流域の風土に触れることができる、そんな魅力的な道である。

四万十川にかかる沈下橋(写真、宮嶋康彦)
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「滞在型」の道の駅として有名な「四万十とおわ」

 この国道381号線の最深部、四万十川が大きく蛇行したところに、「四万十とおわ」という道の駅がある。高知市内からは車で2時間強と決して地の利に恵まれた場所ではない。敷地面積も約2600坪とそれほど大きいわけでもない。だが、多くの利用客で連日のようににぎわっている。

 ある9月の平日、駐車している自動車を見たところ、高知ナンバーや愛媛ナンバーに混じって、大阪や神戸など関西圏の車が止まっていた。大阪市内から四万十流域へは軽く400キロ以上の道のり。四万十川観光の寄り道だろうが、それだけ遠くの人々がこの道の駅に足を運んでいるということだ。

山麓にたたずむ道の駅。遠く関西方面から足を運ぶ人も(四万十ドラマ提供)
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 多くの人々が山間僻地の道の駅に訪れるのはなぜか。恐らく、その最大の誘因は商品力だろう。

 風呂に置くだけでヒノキの香りが漂う「四万十ひのき風呂」、旧十和村(現四万十町)の特産である栗を使った「四万十栗の渋皮煮」、独特の香りを誇る香り米「十和錦」、地元のショウガを使った「ジンジャーシロップ」、四万十の茶葉を使った「しまんと緑茶」など、「四万十とおわ」にしかないオリジナル商品が60アイテムもある。

 それは、併設する「とおわ食堂」のメニューでも同様だ。十和村で採れた椎茸のタタキや四万十川の青のりの天ぷらが入った「とおわかご膳」、四万十川の漁師が採った天然ウナギの「四万十川の天然鰻丼」、十和村産の豚を使った「とおわポーク丼」など、ここで提供する料理は四万十流域の食材を使ったものだけだ。

 とおわ食堂に軒を連ねる「とおわ市場」も鮎や川エビ、野菜、キノコなど、地元で採れたものしか扱わない。だからだろう。2007年7月のオープン後、わずか15カ月で来場者20万人を突破した。「滞在型」の道の駅として、多くの利用者を集めているのはこうしたオリジナル商品によるところが大きい。

成功の立役者は四万十流域の“住民株式会社”

 道の駅「四万十とおわ」の大繁盛。その立役者は、四万十中流域に根を張る“住民株式会社”、四万十ドラマである。「四万十とおわ」の運営のほかに、オリジナル商品の開発や物品販売、観光交流事業といったコミュニティビジネスを手がけている。

 売上高は2億8000万円(2009年3月期)。パートを含め20人の従業員を雇っている。四万十町が所有している道の駅の建物の賃料は払っていないが、それ以上の公的な補助は受けていない。ギリギリだが、収支も黒字である。

 このへんな名前の会社は1994年11月、旧大正町(現四万十町)、旧十和村、旧西土佐村(現四万十市)などの第三セクターとして発足した。四万十川流域196キロメートル、その中流域の地域おこしのためだった。そして、「四万十ひのき風呂」や「しまんと緑茶」など四万十流域の知恵と資源を活かした商品を数多く世に送り出した。

 今では、「流域の活性化」という面でも欠かせない存在になりつつある。

 2005年に農林水産祭むらづくり部門で内閣総理大臣賞を受賞した「十和おかみさん市」。村内各集落の女性を中心にした生産者グループが、自家用の農作物を「おでかけ台所」と称して高知市内などのスーパーに売りに行く、という取り組みだ。生産者の収入拡大や地域活性化に一役買っている。このシステム作りや営業にも四万十ドラマは大きな役割を果たした。

四万十川に負荷をかけないものづくりを実践中

 四万十ドラマのコンセプトは「ローカル、ローテク、ローインパクト」。「ローカル」とは、四万十川を共有財産に足元の豊かさや生き方を考えること。「ローテク」とは、地元の素材や技術、知恵を活かした第1〜1.5次産業にこだわること。「ローインパクト」とは、四万十川に負荷をかけずに活用する仕組みを作ること。自然環境を保全しつつ活用することを基本に、四万十川に負担をかけないものづくりを展開している。

店内に足を踏み入れると、オリジナル商品で一杯(写真:宮嶋康彦)
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 このように企業として健全に成長したからだろう。2005年には完全民営化を実現。近隣住民に株式を売却し、住民が株主の住民株式会社に姿を変えた。2006年度には農林水産省が認定する「立ち上がる農村漁村」に選出。現在は、同社のノウハウを国内のほかの地域に移転するプロジェクトを進めている。

 ここ最近、成功例として語られることが増えた四万十ドラマ。この第三セクターに魂を入れたのは梅原真だった。明神水産の「藁焼き鰹たたき」、馬路村の「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」、黒潮町の「砂浜美術館」などを手がけた高知県在住のグラフィックデザイナーだ。

 「何のための会社なのか」「何のために存在するのか」――。梅原は四万十ドラマのアイデンティティを作り上げた。四万十ドラマがぶれることなく立ち上がったのは、創業間もない時期に明確な軸を作り上げたからにほかならない。住民株式会社になった第三セクター、四万十ドラマの奇跡を見ていこう。

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著者プロフィール

篠原 匡(しのはら・ただし)

昭和50年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。以後、主に「日経ビジネス」の記者として活動している。趣味は競艇と出張、庭いじり。著書に『腹八分の資本主義』(新潮社)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)がある。

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