「先細る魚大国ニッポン」

捨てた魚は、高級フレンチだった

【最終回】新しい魚流通の仕組みを模索

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2009年12月16日(水)

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 「結局、一に割烹、二に鮨、三、四がなくて五にフレンチ、イタリアンだったんですよ」

 そんな実情を語ってくれたのは、ZEN風土(東京都港区)の社長、増田剛であった。同社が魚を卸している先は、東京都内を中心に80軒近くに上る。中には、レストラン格付け本『ミシュランガイド東京』(日本ミシュランタイヤ)で星を得た名店も含まれる。ところが、話を聞くと、取引先として名前が挙がるのは、フランス料理店やイタリア料理店が多い。

 新鮮な魚を卸しているのに、なぜ、刺し身を扱う日本料理店ではないのか。そんな素朴な疑問への回答が、冒頭の言葉だった。増田剛は、魚市場のあり様を説明してくれた。なんと築地市場に直接仕入れに来る料理人たちは、必ずしも平等に扱われていないというのだ。

フレンチ人気魚の共通項

 仲買人たちは、相手を“選別”している。割烹や鮨の料理人には、魚を優先して回す。そこには、老舗日本料理店と取引できる誇りや長年の付き合いから生まれた人間関係といった要因があるのだろう。

 それに対して、フランス料理やイタリア料理のシェフたちには、「どうせ焼いて、バターソースつけちゃうんでしょ」と、たかをくくっている仲買人が少なくないという。シェフたちは、築地市場に出向いても、なかなか自分が満足できるような魚を手に入れることができなかった。そもそも多くのシェフたちは、ランチの用意もあり、なかなか築地まで出向けるものでもないのだ。

 一方で、ZEN風土は、もともとコンピューター開発会社で全国漁業協同組合連合会(全漁連)のソフト開発がきっかけで、魚の卸業を手がけるようになった。新参者だから、なかなか相手にされない。仕入れを任せてくれる漁協組合はあっても、売る先を見つけるところから始めなければならない立場だった。

 まさにお互いの悩みを解決し合える関係にあったと言える。漁港からZEN風土によって直送されてきた魚介を見ると、シェフたちは「こんなに鮮度の高い素材が、この値段で買えるなんて!」と感動するという。

 増田剛はそんな姿を見るにつけ、「フランス料理って、もっと自由な料理のはずなのに」と嘆く。「一般消費者の固定概念の中に、フランス料理というと、タイとスズキ、ヒラメしかないのも問題なんです」。

 タイとスズキ、ヒラメは、養殖ができる。このために、収獲が安定しており、大量に流通している。これは、仕入れする飲食店にとっては、4定条件(「定量」「定質」「定価(低価格)」「定時」)を満たしており、使い勝手がいい。また、結婚式といったパーティイベントなどの主催者にしても、養殖モノを使うことで、豪華なフランス料理を振る舞いながらコストを抑えることができる。どちらにとっても、タイやスズキ、ヒラメを使うのは好都合というわけだ。

 気づけば、フランス料理で出てくる魚は、タイとスズキ、ヒラメばかり・・・。すると、消費者の間で、「フランス料理とはそういうもの」というイメージが固定化される。実際、フランス料理のバリエーションを、ぱっと思いつく人は少ないのではないだろうか。ほかはオマールエビのなんたらや、フォアグラ、サーモンくらいのものか。

 こうなると、“悪循環”に陥る。タイやスズキ、ヒラメを使うのがフランス料理となれば、料理人の自由度が狭まっていく。そして、養殖ができる限られた魚種だけに偏っていくことは、漁師にとっては買い叩かれる材料でしかなく、手取りが減っていくことを意味する。

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著者プロフィール

中西 未紀(なかにし・みき)

フリーライター。1979年神奈川県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、出版社、編集プロダクションを経て現職。日経ビジネスオンラインのほか、雑誌など各媒体にてインタビュー記事を中心に活動。



このコラムについて

先細る魚大国ニッポン

日本の漁業が先細っている。漁業総生産量はピーク時の半分以下となり、漁師の数も減少傾向にある。魚は獲れず、後継者も不在――。それでも、スーパーマーケットには毎日パック詰めの魚がずらりと並び、回転寿司で当たり前のようにメニュー通りのネタが回る。こんな光景は、いつまで続くのだろうか。

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