「ニュースを斬る」

八ツ場ダムのムダとは、何だったのか?

誰も持ち合わせていない日本に必要なダムの数

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2009年12月18日(金)

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 政権交代直後にあれほど騒がれた八ツ場ダム問題はその後どうなったのか。一時はテレビのワイドショー番組でも頻繁に取り上げられたが、今では一般市民の関心から埒外に置かれてしまった感すらある。

 そんな中、国土交通省に「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(以下、「あり方会議」)が設置された。あまり注目度の高くない会議だが、議論の行方によっては防災に対する考え方が大きく変わり、八ツ場ダム中止宣言どころの騒ぎではない大転換を迫る可能性もある。

想定は「200年に1回」の洪水

 「コンクリートから人へ」のスローガンを掲げ、ムダな公共事業の削減を前面に打ち出す民主党政権が真っ先にやり玉に挙げたのが群馬県内で工事が進む八ツ場ダムだった。総選挙前のマニフェスト(政権公約)では、公共事業で1兆3000億円のムダを削るとし、具体的な事業として熊本県の川辺川ダムとともに、その中止が明記された。前原誠司国土交通大臣は就任早々、八ツ場ダムの工事凍結を指示、10月2日に本体工事は“劇的”にストップした。

 その後の中止・推進両派による“対立劇”は、テレビをはじめとする“大衆マスコミ”を通じて広く一般市民に周知されたところだ。

 が、そもそも八ツ場ダムは、何が、どう、ムダなのか。案外、それについては世間の関心が向いていない。どちらかというと、「ダムはムダ」「人命第一」といったイデオロギー的論争を面白がっている嫌いがある。一体全体、総事業費約4600億円の巨大事業とはどのようなものなのか。

 関東平野を東西に流れる利根川、その上流の支川の1つである吾妻川に建設される多目的ダム、それが八ツ場ダムだ。新規水利権を開発し、発電も行うが、総事業費の半分超の負担額が割り当てられている治水こそが最大の目的である。利根川下流の分水流である江戸川は首都圏の人口密集地を南北に貫いて東京湾に注いでおり、東京の水害防止にとっては要でもある。八ツ場ダムがムダかどうかの大きな判断基準は、治水にどれほど役立つか、という点にかかっていると言ってもよい。

 水系の流域全体に降る雨量を予測し、そこから導き出される河川のピーク流量をシミュレーションして、それを上流ダム群で一定程度カットし、残りの流量を安全に海まで流すというのが、治水計画の基本パターンである。日本は世界に冠たるダム大国だが、国土が狭いため、ダムそれぞれの容量は小さい。エジプトのアスワンハイダムに代表される海外の巨大ダムのように洪水を丸ごと受け止めることはできない。

 八ツ場ダム計画自体はなるほど大規模な事業だが、それはさらに壮大なスケールで進められる利根川水系全体の治水計画の一部を構成するパーツに過ぎない。2006年に決められた「利根川水系河川整備基本方針」は「200年に1回の洪水」を想定するものだが、その概要はこうだ。

 まず、前提とする雨量は3日間で319ミリメートル。それを基にシミュレーションされるピーク流量は河口から約182キロメートルの八斗島地点(群馬県伊勢崎市)で毎秒2万2000トン。そのうち上流ダム群でカットするのは毎秒5500トンだ。

 ピーク流量の25%を調節するだけだから、一見簡単そうな話だが、実はこれを達成するのは生半可でない。国交省と独立行政法人の水資源機構はこれまでに矢木沢ダムなど6つのダムを利根川上流に建設したが、八斗島地点でのピーク時に調節できる流量は「毎秒約1000トン」(国交省河川局)にしかならない。現状では毎秒4500トンもの調節能力が足りていないわけである。

 実は、高さ116メートル、有効貯水量9000万立方メートルと日本有数の大型ダムである八ツ場ダムといえども、洪水調節能力は極めて限定的だ。ダム地点で想定される流量毎秒3900トンのうち約6割に相当する毎秒2400トンをカットするものの、八斗島地点でのピーク時には「約600トン」(国交省河川局)の調節能力しか期待されていない。「ほかの支川からの流れ込みなどを踏まえる」(同)と、必ずしもダム地点での調節能力をそのまま発揮することはできないのだ。

ダムの1つや2つは、すぐにムダになる

 つまり、八ツ場ダムが完成したとしても、八斗島地点でのピーク流量は毎秒約1600トンしかカットされない。4600億円もかけて建設するにもかかわらず、調節しなければならない流量はまだ毎秒3900トンも残る。これではダムがどれだけあっても足りないような気になってくる。

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著者プロフィール

高橋 篤史(たかはし・あつし)

ジャーナリスト。1968年愛知県生まれ。93年早稲田大学教育学部卒業。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て、2009年よりフリーランスのジャーナリスト。著書に『ドキュメント ゼネコン自壊』『粉飾の論理』(いずれも東洋経済新報社)がある。



このコラムについて

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