顧客から預かった約1000人分もの臍帯血が現在、宙に浮いている。臍帯血バンク事業を行ってきたベンチャーが2009年10月中旬に破産したためだ。倒産に至る1年半余りの過程では上場企業の不正会計疑惑とも絡み合う怪しげな人脈が暗躍、“究極の個人情報”を預かる民間バンクの心許ない危機管理体制が浮き彫りとなっている。
倒産したベンチャーは茨城県つくば市に本社を置く「つくばブレーンズ」。臍帯血の分離・保管事業を目的に1998年に設立された。筑波大学との技術協力を売り物に事業を展開、国内最大規模となる10万検体分の保管施設を自社で建設するなど、積極経営を進めてきた。
同社が保管を手掛けた臍帯血とは、新生児のへその緒や胎盤から採取する血液のこと。様々な細胞のもととなる幹細胞を多量に含んでおり、既に白血病治療などで移植医療が広く行われている。また、将来的には脳性麻痺治療といった再生医療分野での活用技術の確立が期待されている。
設備投資も、いきなり資金難に
つくばブレーンズが行った保管事業は、出産時に採取した臍帯血を本人や家族が病気となった場合に使うことを目的としたもの。標準コースである10年保管の場合、費用は1人30万円だった。倒産前までに顧客1000人から臍帯血を預かっていたほか、研究用として500人分の検体も保管していた。
先端医療ベンチャーといえば聞こえは良いが、つくばブレーンズの経営は実にお粗末だった。同社がつくば市内に自社施設を建設したのは2002年。ところが、翌年7月、その施設は準大手ゼネコンから仮差し押さえを食らっている。業績拡大を当て込んで設備投資をしたものの、建設資金が払えないほどの資金難にいきなり陥ったものとみられる。
つくばブレーンズの経営がいよいよ混迷を深めたのは2008年に入ってからだ。倒産1カ月前の取材に対する同社幹部の証言によると、「いくつかの顔を持つ人物」の経営介入が混乱に拍車をかけたようだ。その人物はかつて名古屋市内で事務所を構えていた元公認会計士で、当時はジャスダックに上場する富士バイオメディックスの「管理本部副本部長」の肩書を名乗っていた。
ところが、問題の元公認会計士はつくばブレーンズと接点を持つと、富士バイオメディックスではなく、なぜか自身が別に経営する「ヒルサイド」なる都内の会社との提携を迫った。そこにコールセンターを設けて、富裕層をターゲットに勧誘する営業戦略を提案してきたという。保管料は1人100万円に引き上げるとの話だった。
元公認会計士は営業コミッションを落とす受け皿として「つくばマネイジメント」なる別会社を用意。さらに2009年2月には大証ヘラクレス上場のインスパイアー(旧フォーバルクリエーティブ)との資本業務提携もまとめ、つくばブレーンズの経営をテコ入れするとした。
もっとも、元公認会計士が画策したこの営業戦略は実際には全く稼働しなかった。「つくばマネイジメントはつくばブレーンズの一角に入っていたが、活動実態はなく、2009年6月頃に自然消滅した」(関係者)のが実情だったようだ。
この間、元公認会計士は資金繰り難に悩むつくばブレーンズに対して1000万円の資金援助を持ち掛けていた。ところが、手のひらを返すようにして担保の差し入れを要求、特許権や代表者の自宅を強引な形で担保にとろうとした。これに対して、つくばブレーンズは「ある人を使って押さえ込んだ」(前出の幹部)というが、真相は定かでない。
果たして、元公認会計士は何者だったのか。実は、その人物の周辺では不可解な話がいくつも存在する。
まず、「管理本部副本部長」を名乗っていた富士バイオメディックス。同社はつくばブレーンズと接点を持った直後の2008年10月に民事再生法の適用を申請して倒産(負債218億円)しているが、同時に発覚したのが不正会計疑惑だった。同社が展開した美容整形病院などのM&A(合併・買収)戦略に絡んで架空の未収入金が多額に計上されていたのである。複数の関係者によると、そこでは問題の元公認会計士と関係の深い元行政書士が富士バイオメディックスの代理人のような形で暗躍していたという。
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