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職員も保護者も子供も、幸せをつかめない

保育士の36歳女性と29歳女性のケース

  • 小林 美希

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2010年1月4日(月)

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 「園長といっても、“名ばかり園長”のよう」

 小学校入学前の乳幼児を預かる保育士の杉浦正美さん(仮名、36歳)は、神奈川県内の民間保育所の“園長先生”だが、その待遇は、およそ名ばかりだという。

 正美さんは短大卒業後、大手食品メーカーで事務職として働いていた。人事部に配属されると、会社に疑問を持つようになった。社内の人事を見ていると、上司にうまく媚びる社員が評価を受け、出世していく。そんな企業体質に嫌気が差し、転職を決めた。

「なぜこんなにも賃金が低いのか」

 以前から保育士に興味があり、「少子化で難しい分野かもしれないけど、自分には向いている仕事のはずだ」と覚悟を決め、24歳から仕事を続けながら独学で保育士試験の勉強をした。2年後に試験に合格し、会社を退職。その数カ月後、交際していた男性と結婚し、公私ともに心機一転。新たなスタートが始まった。

 就職活動するとすぐ、自治体が認可する民間の認可保育園に採用が決まった。正社員採用だったが、最初は数カ月間「見習い」として時給800円でのスタート。試用期間が終わり正社員になると、基本給が月14万9000円、保育士手当が1万円ついた。条件が良くないとは思ったが、「年齢で不利な分、経験を積みたい」と就職を決めた。

 しばらくすると、保育所の内部に問題があることが分かった。正美さんが勤める市では、待機児童対策に急ぐあまり、保育士の養成に追いつかないスピードで、保育所や保育所と幼稚園の両方の機能を合わせる「認定こども園」といった箱物の設置を進めたため、働く人材の質の劣化を招いたり、労働条件が悪いと次々に職員が辞めていったりする問題が起こっていた。

 正美さんの職場では、保育士の資格を持たないパート職員が多く、「およそ、保育のプロとはいえない状態だった」(正美さん)という。正美さん自身も、特定の園児の年齢のクラスを受け持つわけでもなくすべての園児を見て、給食の配膳、哺乳瓶の煮沸消毒、トイレ掃除までやらされ、まるで“何でも屋”だった。「このままでは、保育士としてのスキルは上がらない」と考え、約5カ月でほかの保育所に転職した。

 一般企業が運営する保育所に転職すると、基本給15万円で保育士手当などがつき、月給17万円からのスタートだった。主任になると手当が3万円つき、施設長(園長)は手当が5万円ついたが、園長になっても月の手取りは約20万円に過ぎない。

 開所時間は、朝7時から夜9時まで。すべての時間帯に在籍しているわけではないが、園長になると管理業務や保護者のクレーム対応などが増え、残業が多くなった。夜9時まで居残っても仕事が終わらず、自宅にも仕事を持ち帰り保育で使う遊び道具を作る日々が続くが、その時間はもちろんサービス残業となる。

 「外食チェーンの“名ばかり店長”と変わらないな」と、思うこともしばしばだが、どこの保育所でも状況はさほど変わらない。時々、求人を見てみたが、正美さんは「多くは月15万円前後。月給20万円の求人があれば驚いてしまう」ほど、相場は低い。

 「やりがいを感じる職業だからこそ、お金で計りたくないが、なぜ保育士の賃金はこんなに低いのか」という疑問を、正美さんは常に抱いている。

 そのうえ、小さな子供を抱っこしたり、走り回る子を追いかけたりする保育士には、結婚・出産適齢期ならではの問題があった。園長として保育士の管理をする立場にあった正美さんは、「同世代で妊娠中の保育士には、流産の危険があるからとドクターストップがかかることが多い」と感じていた。2006年4月に長男を出産したが、その後、自分の身の上にもそうした悲劇が起こったのだ。

自分の子育てができない

 2007年の12月、正美さんに待望の第2子の妊娠が分かった。この時期、クリスマスや年末年始の行事に加え、次年度の準備も重なってくる。忙しさは増し、夜11時まで残業することもあった。年が明けた休みの日、自宅にいると、子宮からの出血が始まった。だんだんお腹が痛くなり、出血量が増していく。

 「何か、変だ」と思いながら、シャワーを浴びると、子宮の辺りの痛みが激しくなり、その痛みに立っていられなくなった。うずくまると、生のレバーのような、袋のような赤い血の塊が子宮から押し出されて出てきた。流産だった。

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