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第7回 原文に忠実な翻訳とは

読んでも意味が理解できない訳文になるのはなぜか

  • 山岡 洋一

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2010年1月21日(木)

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 翻訳調の翻訳では、原文に忠実に訳すことが強調された。原文の一字一句もおろそかにせず、忠実に訳していくべきだとされた。しかし、原文に忠実に訳した結果、読んでも意味が理解できない訳文になるというのは、どこかがおかしくないだろうか。原文に忠実に訳したのなら、論旨が明快な原文から論旨が明快な訳文ができるはずであり、読めば読むほど意味が分からなくなる訳文ができるはずはないのではないだろうか。では、翻訳調の翻訳が原文に忠実だとされてきた理由は何なのだろうか。そんな点を考えながら、『国富論』のうち、とくに有名な部分の訳をみてみよう。

われわれが食事を期待するのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心からではなく、彼ら自身の利害にたいする配慮からである。(水田洋監訳・杉山忠平訳『国富論』、岩波文庫、2002年(2刷)、第1巻39ページ)

It is not from the benevolence of the butcher, the brewer, or the baker, that we expect our dinner, but from their regard to their own interest.

原著者の意図に忠実でない悪訳といえるのか?

 ここで注目したいのは、「期待する」という言葉だ。原文にあるexpectという言葉はなぜか、「期待する」と訳すことになっている。少し考えてみれば分かるはずだが、「期待する」とは望みが叶えられるよう願うことを意味し、どちらかといえば実現する可能性が低いときに使う。このため、「われわれが食事を期待するのは」まで読むと、普通なら食事をだしてもらえない状況があるのだろうと予想する。つぎの部分を読むと、そうはなっていないので、頭が混乱する。「われわれが食事を期待するのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心からではなく」がどういう意味なのか、「われわれが食事を期待するのは、彼ら自身の利害にたいする配慮からである」がどういう意味なのか、理解することはまず不可能なように思えてくる。

 もちろん、大ざっぱな読み方をすれば、趣旨は分かるような気もする。論理という点を考えないのであれば、雰囲気は伝わってくる。要するに慈悲心より利害が重要だということのようだ。だが、それでいいのだろうか。

 原著者が竹下登流に言語明瞭意味不明瞭の文章を書こうとしたのであれば、この訳文は原著者の意図に忠実だといえるはずである。だが、アダム・スミスは明快で論理的な文章を書いているのだから、この訳文は原著者の意図に忠実でない悪訳だといえるのではないだろうか。いやそうではない、これが原文に忠実な訳だといえるとすれば、どういう点で何に忠実なのだろうか。

 原文を読むと、何に忠実に訳したのかがよく理解できる。「期待する」というのは、expectの訳語として学校英語でたたき込まれた言葉だからだ。それに、文頭のItがthat以下を代表する仮主語であることを明らかにする訳し方も、学校英語で教えられた通りだからだ。

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