「歴史を見る目のつくりかた 【年始特番・教えて下さい、加藤先生! 編】」

第2回 勉強すべき総量とは、人々が未来に備えるために必要な総量だ

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2010年1月15日(金)

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山岡 この本のスタイル、「大学の先生が中高生に近代史を授業として語る」という形がとても効果的でしたね。

加藤 ありがとうございます。

山岡 暗記ものではない歴史の面白さがあふれていますよね。自分の中学、高校の歴史の授業がもしこんなふうだったら…。

加藤 「日本史を大学で教えるのは遅いんじゃないか」と、実は常々思っていたんですよね。といいますか、近現代については、地理、世界史、日本史はもう、ごたまぜで学んだ方が面白いのではないかと。

歴史は「ごたまぜ」で面白く教えよう

山岡 ごたまぜに。

加藤 はい。例えば、前回もお話ししましたが、先日、新潟県の高田というところにお邪魔しまして、ここは1910(明治43)年に、蒋介石が来た場所です。彼は高田野砲第19連隊に入隊し、近年明らかになった日記に拠れば、そこでの経験は生涯にわたる影響を与えたとされています。

 辛亥革命が起こる前年に日本に来た蒋介石は、革命の報を聞いて急いで帰国します。辛亥革命が起こった年は、明治日本にとっても最後の年にあたります。つまり、中華民国の一年目と大正の一年目が同じ年となる。世界史と日本史という垣根などがないほうがわかりやすい。また、日本海側にある高田と中国との位置関係、あるいは当時の日本・中国・ロシアとの関係とか、これを同時に教わった方がエキサイティングでしょう。

写真/樋口とし

山岡 それは興奮しますよね。頭が柔らかい中学・高校の時期にそれをやれたらいいですね。

加藤 今回、地理と世界史と日本史の知識を、学科の垣根を作らずに中高生に話すというのは、私にとってもとても面白く、チャレンジングだったと思います。時間のないビジネスマンの方にも、3つ一緒に学べて、いいんじゃないでしょうか(笑)。

山岡 そういう「歴史の面白い学び方」は、文部科学省あたりはどう考えているんでしょう。

加藤 OECD内で日本の学力が落ちていることへの危機感もあって、文科省や高校の先生の一部などに、「19世紀、20世紀の近現代史について世界史と日本史を合わせて一つの教科にできないか」という声は根強くあります。

山岡 それはいいですね。先生たちは、教科書が統一されて教えるコマがなくなっちゃったらどうしよう、とか心配しそうですけれど。

教科書の作り方も、教え方もどんどん変えていい

加藤 だったら一緒に教科書を作って「自分は世界史のこの部分が詳しいから、1年のうち、この4時間分を教えます」などという、協力関係ができるんじゃないでしょうか。日本史の先生が、自分ではあまり分からない地理や世界史からの視点を補ってもらい、自分でも地理や世界史を補完する。

 社会科の先生方は大変なご苦労をされていて、地理も世界史も日本史も公民も担当しなければならない。ならば教科の中身を一つにして、自分が最も詳しい部分を分担するという手はあるのじゃないでしょうか。「少子化で人数が少なくなる中で教育をいかに豊かにやるか」「ならば、個々の分野のトップバッターが行きます」という発想で、教育も変えられると思うんですね。

山岡 今おっしゃった、世界史と日本史と地理って1つの固まりとしてとらえた方が面白いよという、これはまさにその通りだと思うんですね。例えば、自分で何かを書こうと思うときに、この3つは決して分けないですよね。

加藤 そうなんです。たとえば、山岡さんの書かれた後藤新平ですが、児玉源太郎の推薦で台湾に行って民政長官になり、さらに引っ張られて満鉄(南満州鉄道)総裁ですからね。教えるとき、オランダによる台湾支配の時期があったとか、満鉄の由来など世界史もいっしょに説明できれば面白い。さらに言えば、山岡さんは後藤を「公共の思想」を体現した人と描かれましたね。

山岡 はい、そうです。確かに後藤と台湾の関係だけでなく、世界史的な潮流を補っていけば面白くなりますね。私は歴史の専門家ではまったくありませんが、歴史系のものに惹かれる場合、どうしても「人」から入りたくなってしまうんです。

 たとえば後藤新平の生き方に興味を持って、彼の関東大震災後の「帝都復興計画」を調べていて、都市計画に至ります。そこから、時代をずっと下って現代にくると、素朴で、大きな疑問に突き当たります。

日本の家はなぜ30年で建て替えるのか

山岡 それは「日本の住宅はなぜ30年の短サイクルで建て替えられるのだろうか」です。一応、都市計画で住宅地、商業地、工業地などのゾーニングが行なわれ、住宅地の環境は安定的に維持されるはず。なのに、肝心の家が驚くほど短命なのです。

あなたのマンションが廃墟になる日 建て替えにひそむ危険な落とし穴』山岡淳一郎 草思社 マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日』山岡淳一郎 日経BP社

 欧米を何でも持ち上げるわけではないけれど、彼らの住宅サイクルは、少なくとも60年以上。この違いの根っこに何があるんだろうと突き詰めていくと、結局、戦後、一貫して地価が上がっていたことに突き当たるんですよ。

加藤 ああ、ご本にあったスウェーデンやドイツの例は面白かったですね。1158年に建てられた、マリア・テレジアが泊まったホテルが修復されてまだ現役、とか。国によって政策が本当に違うんですね。その原因が地価であると。

イラスト/モリナガ・ヨウ
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今回もやります、書店さん連動イベント!
「歴史を見る目」を作る本が大集合

 加藤先生が教えてくれた「歴史」を学ぶ本が、首都圏の有隣堂主要店さん、フタバ図書南砂店さんで手にとってご覧頂けます!(店舗・書籍リストは→こちらから) 書籍紹介をインタビュー形式でまとめた小冊子も無料で配布中。本連載と合わせて、ぜひご来店ください。

フェアはこの女高生イラストを目印に!(写真は有隣堂戸塚店さん)
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著者プロフィール

山岡 淳一郎
(やまおか・じゅんいちろう)

山岡 淳一郎1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など幅広く執筆。福島県を中心に被災地と永田町、霞ヶ関を対比的に取材。4月初旬、『放射能を背負って 〜南相馬市長桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)を刊行予定。『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄 封じられた資源戦略』『国民皆保険が危ない』『原発と権力 戦後から辿る支配者の系譜』ほか著書多数。ブログはこちら。(写真:GOH FUJIMAKI)

加藤 陽子(かとう・ようこ)

加藤 陽子1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。89年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。本企画で紹介している以外の主な著作には『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)『戦争の論理』(勁草書房)などがある。

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集を経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長、編集委員を務めた後、2010年4月から日経ビジネスアソシエ副編集長。ツィッターはこちら



このコラムについて

歴史を見る目のつくりかた 【年始特番・教えて下さい、加藤先生! 編】

 私たちはなぜここにこうして立ちつくして、呆然と荒波を見ているのか。ここまで何があって、どう歩いて、この状況に至ったのか。それを自分の頭で理解しないことには、前に進めそうにありません。

 というわけで「経済学っぽくいこう!」に続く勉強シリーズ第二弾、今回は「歴史」、それも近代史・現代史を勉強してみようと思います。「私たちはいまなぜここにいるのか」を面白く学ぶために、格好の先生を見つけました。まず前半は、いわゆる「日本型」の利益再分配・福利厚生システムが始まった時期を担った首相、田中角栄にスポットを当てた『田中角栄 封じられた資源戦略』を上梓した山岡淳一郎さん。後半は、ベストセラーとなった『それでも日本人は「戦争」を選んだ』の著者、加藤陽子先生が登場。史実を「読み倒す」ことに長けたおふたりから「歴史を見るための眼」の培い方を学びましょう。

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