• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

最終回 学ぶための手段としての翻訳

新しい翻訳が論理表現に優れた日本語を確立する

  • 山岡 洋一

バックナンバー

2010年2月18日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む)

 日本がいち早く近代化を達成できたのはなぜなのかについては、さまざまな見方がある。そして、さまざまな要因があったのは確かだと思う。だがそのなかで、日本が1千年以上にわたって、進んだ文明から学ぶ姿勢をとり続けてきたことも、無視できない要因だと思う。

 日本は島国だが、少し離れたところに文明の中心があるという地理的な条件に恵まれていた。このため、古代から、まだ見ぬ先進的な文化に憧れ、先進的な文化を学ぶ姿勢をとってきた。古くは朝鮮半島を通して中国から学び、中国を通して古代インドの文化も学んでいる。その過程で、古代中国語を漢文訓読という独特の方法で翻訳する技術を開発している。

漢文訓読から翻訳調を編み出し欧米文化を学んだ

 戦国時代からはヨーロッパとの接触がはじまり、各種の技術を取り入れるようになった。幕末明治の時代に欧米列強の軍事的な圧力を受けるようになると、日本は憧れと学習の対象を中国から欧米に切り替え、欧米の進んだ文化を学ぶことを国の最優先課題にするようになった。そのときに役だったのが中国の文化を学んできた伝統である。漢文訓読の伝統があったからこそ、日本は翻訳を使って欧米の文化を学ぶ方法を採用したのだろう。そして、漢文訓読に似た翻訳調という方法を編み出し、欧米の重要な文献を徹底して翻訳するようになった。

 いまでは、急速な近代化という明治時代の目標はほぼ達成できている。それに伴って、欧米との関係も変わってきている。憧れの対象ではなくなり、もっと自然に、対等に近い立場で付き合えるようになったといえるだろう。

 しかし、海外にはもはや学ぶものはないという傲慢な姿勢をとったとき、いかに悲惨な状況に陥るかは、何度も痛い思いをして学んできたはずだ。たとえば経済や経営の分野では、1980年代後半が傲慢になった時期にあたっている。その後の「失われた10年」がいつしか「失われた20年」になろうとしているのは、傲慢になった報いだともいえるはずである。

エンターテイメント小説分野に見られる可能性

 日本の良さは、いつも外に目を向け、海外の優れた文化を学ぶ姿勢をとってきたことにあると思える。したがって時代がどう変わろうとも、翻訳は海外から優れた知識を取り入れるために重要な役割を果たすだろうし、果たすべきだと思う。世界の人口は約60億人、日本の人口は約1億3000万人だから、海外には国内の50倍に近い世界が広がっている。だから、海外から学べるものはどの時代にもたくさんあるはずである。

 日本の社会は成熟しているので、今後は小説や演劇、音楽などの文化を豊かにしていくことが重要になるだろう。その点で、エンターテインメント小説の分野に優れた翻訳がたくさんあり、新しい翻訳の可能性を示しているのは心強い。しかし、科学技術や経済、経営、法律、思想などの分野で、海外の優れた知識を学ぶことは、今後もきわめて重要なはずである。論理を扱う分野での翻訳の質を高めていくことは、海外の知識を学ぶ際の効率を高めるために不可欠だと思う。

コメント8件コメント/レビュー

技術翻訳にかかわってきた人間として最後にコメントさせていただくが、このコラムも含め「原文に忠実な訳」という幻想から抜けきれたとき、初めて「正確な訳」ができるようになるとあえて言いたい。技術翻訳の難しさは、原文に忠実に訳すと技術上の間違いが発生するという点につきる。多少なりともこの現象を知っている人間であればすぐに思い当たるはずだが、例えば関係代名詞がどの言葉にかかるのかを正確にわからせるために、あえて文章を複数に分けて訳す、同じ言葉を繰り返して訳す、と言ったことは、かなり初歩的なテクニックであるが、翻訳会社にお金を払って訳してもらうと、これができてこないのである。すなわち「原文に忠実だが何を言っているのかよくわかない文章」にお金を払わなくてはならないということになり、結局「自分でやったほうがまし」ということになる。何を言っているのかよくわからないで済めばいいが、技術翻訳ともなるとそんな悠長なことは言っていられない。翻訳の間違いが命取りになりかねない。「原文に忠実な訳」など、しょせん言葉遊びのレベル、暇人の道楽と言ったら言い過ぎか・・・?(2010/02/18)

「古典の翻訳がさっぱり分からなかった人へ」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

技術翻訳にかかわってきた人間として最後にコメントさせていただくが、このコラムも含め「原文に忠実な訳」という幻想から抜けきれたとき、初めて「正確な訳」ができるようになるとあえて言いたい。技術翻訳の難しさは、原文に忠実に訳すと技術上の間違いが発生するという点につきる。多少なりともこの現象を知っている人間であればすぐに思い当たるはずだが、例えば関係代名詞がどの言葉にかかるのかを正確にわからせるために、あえて文章を複数に分けて訳す、同じ言葉を繰り返して訳す、と言ったことは、かなり初歩的なテクニックであるが、翻訳会社にお金を払って訳してもらうと、これができてこないのである。すなわち「原文に忠実だが何を言っているのかよくわかない文章」にお金を払わなくてはならないということになり、結局「自分でやったほうがまし」ということになる。何を言っているのかよくわからないで済めばいいが、技術翻訳ともなるとそんな悠長なことは言っていられない。翻訳の間違いが命取りになりかねない。「原文に忠実な訳」など、しょせん言葉遊びのレベル、暇人の道楽と言ったら言い過ぎか・・・?(2010/02/18)

>>日本の良さは、いつも外に目を向け・・・私は、日本の根底にある性格というのは、島国という地理的要因による、鎖国であると思ってます。閉じた世界の中で平和な一時代を過ごし、その後発展した外部に刺激されて急いで追いつく・・というのを繰り返してきたのではないでしょうか。積極的に外部に目を向けていたのではなく、外部に目を向けざるを得ない状況に自身を追い込む、というイメージです。良いか悪いかは別として、現在の日本は学ぶ時期を脱し、殻に閉じこもる過程のように見えます。(2010/02/18)

翻訳調が永らくはびこった(?)のは、難しいことをありがたがる風潮があったことも一因ではないでしょうか。今は、相手にわかるように伝えるとか、平易な表現をよしとするので、翻訳調の評価は下がってしまったように思います。 ★★★たいへん参考になるコラムでした。(迷亭寒月)(2010/02/18)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

面白い取り組みをしている会社と評判になれば、入社希望者が増える。その結果、技能伝承もできるはずだ。

山崎 悦次 山崎金属工業社長