世界のオーディオマニアが惚れたヘッドホンがある。静電気で膜を振動させる技術でオーケストラの生音を再現する。倒産を乗り越え、総勢12人の会社が世界唯一の手作りの技を守っている。
ジャズやクラシック界のピアニストの巨匠として知られるキース・ジャレットはある雑誌の取材で、自慢のオーディオコレクションとして「ヘッドホンはスタックス」と答えている。
オーディオマニアたちを唸らせる音響機器は、米マッキントッシュなど欧米メーカーが主流の業界だ。強豪がひしめく中にあって、世界のトップアーティストが惚れ込み、音のプロたちがこぞって使うヘッドホン。その生みの親は、埼玉県三芳町にあるスタックスという零細企業だ。
価格は売れ筋製品でも、専用のアンプとセットで10万円近くする。高級品であれば、ヘッドホンだけで21万円もする代物だ。月間の販売台数は1000台で推移している。

スタックスの何が優れているのか。オーディオ評論家の角田郁雄氏は「極めて生音に近い音を再現できる点にある」と話す。それを支えるのは、世界で1社と言われる、コンデンサー型ヘッドホンを作る技術だ。
四角い特徴的なフォルムを持つスタックスのヘッドホン。同社は「イヤースピーカー」と呼んでいる。一般的に流通しているダイナミック型と呼ばれるヘッドホンと、スタックスが製造するコンデンサー型と呼ばれるものでは、そもそもの構造が違う。ダイナミック型ヘッドフォンは、音を出す振動膜を磁石やコイルで震わせる。
静電気で音を発生
一方、スタックスの発音体は穴が開いた2枚の固定電極板の間に振動膜を張った、3層の構造になっている。振動膜は厚さ1.35マイクロメートル(マイクロは100万分の1)という極めて薄いフィルムを使用。振動膜を挟んで固定電極板に高い電圧をかける。電気信号によって電圧が変化することで静電気が発生し、振動膜が一方の電極版へと引っ張られる。この原理を用いて振動膜を震わせて、音を出す。
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