山岡 松岡洋右が「日本人の通弊は潔癖にあり」と喝破した手紙を前回ご紹介しましたが(前回の記事はこちら)、物事をできるかぎりそのまま受けとめるのではなく、「誰かのせい」「悪いのはだれ」とつい考えてしまう社会的なクセは確かにありますよね。現前の制度の矛盾や、なぜそうなったかを「歴史」の目で考える前に。
例えば加藤先生が『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』で触れられた、戦前の満州移民の方たちの悲劇は、そうはいっても、その人の決断の結果であろうとか、あるいはソ連軍の侵攻、関東軍の無責任、という話にすぐつながるのですが、先生の本を読むと、背景には国の助成金がある。
加藤 満州の実態が「王道楽土」などではないとわかってくるにつれ、移民希望者も減っていく。それを補うために国や県が、移民すれば村の道路整備を補助金でやってあげますよ、と言うわけですね。いわば、カネで移民を釣ったわけで、その達成度を出先の機関に競わせもしました。最も移民を多く送出した長野県の飯田市歴史所が編んだ『満州移民(紹介記事はこちら)』(現代資料出版)によーく書かれています。
偽装マンションと満州移民に向けられる眼
山岡 社会がスケープゴートみたいなものをつくろうとする動きってありますね。悲劇が起こる背景を「所与の条件」と度外視し、「失敗した人の自己責任」で片づけてしまうようなところが。これは実は、2005年に耐震偽装事件が起きたとき、偽装マンションを購入した人たちに対する社会の目線と、すごく共通するように思えます。
![]() |
加藤 陽子(かとう ようこ) 1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。89年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。本企画で紹介している以外の主な著作には『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)『戦争の論理』(勁草書房)などがある。 |
![]() |
山岡 淳一郎(やまおか じゅんいちろう) 1959年、愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」を共通テーマとして都市開発、医療、ビジネス、近代史と分野を超えて、旺盛に執筆。ドキュメンタリー番組のコメンテーターとしても活動している。本企画前編「わたしたちが「こうなった」のはなぜ?〜「角」の視点から学ぶニッポン現代史」もぜひ。 |
編集Y 山岡さんに記事を書いていただいたんですよね(「価格でマンションの質は見抜けない」)。
山岡 ヒューザー物件は「安物買いの銭失い」だったのか? いや、これは自己責任で見抜けるようなものではありませんよと書いたんですね。だから、救済策は不十分ではないかと問うた。そうしたら「いや、それでも俺なら見抜けた」というご意見をいただいたりして。
【当時のコメント欄から引用】
耐震偽装マンションの件、被害者とされる住民への対応はまったく理不尽ではない。私自身マンションを購入したが、その前に建築関連の書籍を読んだり、ゼネコンの友人に工事のプロセスや適正価格を聞き、その上で物件を選んだ。家というのは大きな買い物なのだから、事前に勉強してから買うのが普通だろう。購入を検討していた当時、ヒューザーの物件の広告も見たが、どう見ても「構造材やコンクリの骨材で手抜きしているだろう」と分かる内容だった。ヒューザーの件の自称被害者の連中は単に勉強不足なだけ。「安物買いの銭失い」そのものだ。勉強してから買う人間からすれば、歯牙にもかけない安普請を買ったわけだから。彼らに課された負担は、所詮は「適正価格」との差額なのだから、払うことで彼らは損をしたわけではない。
加藤 山岡さんの『あなたのマンションが廃墟になる日 建て替えにひそむ危険な落とし穴』(草思社)、『マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日
』(日経BP社)を読みましたが、阪神淡路大震災後のマンション再建をめぐる当事者の血を吐くような大変さと、それを見る社会の目の距離感のギャップにも通じますね。自分ならそうはしない、と思うのでしょうか。
![]() |
![]() |
| 『あなたのマンションが廃墟になる日 建て替えにひそむ危険な落とし穴 |
『マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日 |
山岡 このころから「自己責任」が、なんだか嫌な言葉になってしまいました。少なくとも建築確認という国が作ったシステムを一応、クリアしたということで売り買いされていたものですから、自己責任なんかは果たしようがないわけですが。
加藤 「あなたがいいというから買ったのに」とか、家庭内でも喧嘩が多発したり。だけどやっぱり犯人捜しはだめですよ。
市民革命無き日本は、永遠に子供?
山岡 たぶん、システムの問題を個人に責任転嫁する犯人探しをやればやるほど、社会の方が閉塞するような感じがするんですよ。
なぜ犯人探しがすぐ始まるのか。ひとつの考え方として、日本人は社会制度を自分たち自身で変えたことがないから、「制度はだれかが押しつけてくる所与のものなんだ、変えようがないんだ」、という思い込み、諦めがある、というものがありますね。だから、自分たちでも手の届く、名前のある存在に責任をかぶせてしまおうとする。
強引に単純化すると、「市民革命を経てないから、日本はなかなか大人の国にならない。だからだめなんだ」と言う人がいるじゃないですか。
加藤 いますね。
山岡 あの見方に関しては、先生はいかがですか。
* * *
ご来店、ありがとうございました。
加藤先生&山岡さんが選んだ本、いかがでしたか?
加藤先生と山岡さんが選んだ「歴史」を学ぶ本が、首都圏の有隣堂主要店さん、フタバ図書南砂店さんで手にとってご覧頂けるフェアもそろそろ千秋楽です(店舗・書籍リストは→こちらから)。お店によって期間の前後がございますので、ご確認の上おいでください。書籍紹介をインタビュー形式でまとめた小冊子も無料で配布中です(なお、今後このような企画にご協力を頂ける書店さんも大募集中! コメント欄に「非公開」設定でお寄せ下さい)。
有隣堂・フタバ図書のみなさま、ご協力本当にありがとうございました! 次回もよろしくお願い致します
(日経ビジネスオンライン編集 Y)
|
有隣堂 藤沢店さん
画像のクリックで拡大表示
|
有隣堂 大和店さん
画像のクリックで拡大表示
|
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。









1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、政治、経済、近現代史、医療、建築など幅広く執筆。福島県を中心に被災地と永田町、霞ヶ関を対比的に取材。4月初旬、『
1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。89年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。本企画で紹介している以外の主な著作には『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)『戦争の論理』(勁草書房)などがある。

からのご案内




