「理想の住まいは私が作る」

「新築中心」から離れたら、新しいビジネスが見える

「45年ぶり、新設住宅着工戸数80万戸割れ」の次に何が起きるのか?

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2010年2月10日(水)

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 2009年の新設住宅着工戸数は78万8410戸にとどまった。新築供給が80万戸を下回ったのは1964年以来、45年ぶりのことだ。これまで、40年以上も100万戸を超える大量供給が続いていた。だが、雇用不安や所得減少、世帯数を大幅に上回る住宅ストックの現状などを考えれば、かつてのような“100万戸時代”に戻ることはないだろう。

 こうした時代の地殻変動を受けて、2月8日号の日経ビジネスでは、「理想の住まいは私が作る」という特集を組んだ。中古物件をリーズナブルに購入し、賢く理想の住まいを作っている人々のリポートだ。これからの時代、既存ストックを賢く活用する発想が生活者にも企業にも求められる。この動きは、一過性のブームではない広がりを持つ。

 今回の特集に関連して、企業経営者や識者のインタビュー、実際に住まいを作った人々のケーススタディ、住宅産業のあり方などを4回にかけて連載していく。最終回の今回は東京大学大学院工学系研究科建築学専攻の松村秀一教授。今回はストック活用時代の産業のあり方を聞いた。


(聞き手、日経ビジネス オンライン、篠原匡)

 ―― 2009年の新設住宅着工件数は78万8410戸と45年ぶりに80万戸を割り込みました。日本という国の構造が変わる1つの象徴的と感じました。松村教授は今回の結果をどう見ていますか。

 松村 まあ、いつかこうなると予想されていましたからね。ようやく転機が来たな、という感じでしょうか。

 この国では昭和43年以降、ずっと100万戸を超える住宅供給が続いていました。最も多かった昭和48年は約190万戸、バブルの頃でも約170万戸を供給しています。バブル崩壊後、新築の供給戸数はずいぶんと減りましたが、それでも100万戸は維持していた。これがどのようなペースかというと、人口1000人あたりで年間9戸以上。こんな国は世界を見てもまったく類がありません。

「ようやく日本は普通の国になった」

松村 秀一(まつむら・しゅういち)氏
1957年兵庫県生まれ。80年東京大学工学部建築学科卒業、85年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。ローマ大学客員教授、南京大学客員教授、モントリオール大学客員教授などを歴任。現在、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授。工学博士、1級建築士。主な著書に『建築再生の進め方―ストック時代の建築学入門』(共著、市ヶ谷出版)、『団地再生−甦る欧米の集合住宅』(彰国社)などがある
(写真:村田 和聡、以下同)
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 松村 例えば、米国の供給戸数を見ると、だいたい年間6戸ほどで推移しています。英国は年間3戸台と少ないですが、フランスも年6戸ほどの水準にある。もちろん、戦後の住宅不足の時に、1〜2年という短い期間で年間9戸を超えたことはありましたが、日本のように40年以上も年間9戸を超える新築住宅を供給した国はどこにもない。

 そう考えると、日本の住宅市場は極めて特殊な市場だった。今回、78万戸台という異様に低い供給戸数になりましたが、これを1000人あたりの戸数に直せば年6戸。これは米国やフランスと大差ありません。ようやく日本が普通の国になったということではないでしょうか。

 ―― そうすると、現在の70万〜80万戸の供給水準が続くということですか。

 松村 ここから先がどうなるのか、ということはまったく予想がつきませんけれども、大きなトレンドで言えば、人口1000人あたりで年9戸、10戸という市場ではなくなりますよね。やはり高齢化の影響が大きいですよ。新たにローンを背負って住宅を建てることはなかなかないですからね。

 ストック面から見ても、供給戸数が減ることは間違いないでしょう。総務省が5年に1回、実施している住宅土地統計調査(速報値)によれば、世帯数4999万に対して、住宅ストックは約5760万戸に達している。空き家の数は760万戸で空室率は13%。7軒に1軒が空き家になっているということですよ。

 ―― すごい数ですね。

 松村 この760万戸の内実を見ても、使うに耐えないような状況だから空き家になっているのではなく、まだ住める家が空き家になっている。マクロで見れば、新たに家を造る切迫した事情がない。そう考えると、今回の70万〜80万戸台が長期的に続いていく、あるいは減少していくと見るべきではないでしょうか。

崩壊し始めた新築神話

 ―― 新築供給が20%も減少するとなると、住宅産業や建築業界に与える影響は大きい。

 松村 やはり産業サイドはストックの活用という方向に大きくシフトせざるを得ないでしょう。ご存じのように、国内の住宅産業は新築を中心に事業を展開してきました。新築偏重といっても過言ではありません。それが可能だったのも、この40年間、他国が経験したことのない国内の巨大市場を相手にしていたためです。

 その中でも、将来の人口減少を見越して、リフォームなどのストック活用型ビジネスの必要性は議論されていました。ただ、100万戸供給が続いていたこともあり、なかなか本腰を入れて取り組むまでには至らなかった。新築以外のものに取り組む機が十分に熟していなかったということですね。

 ですが、ここに至ると、もうそんなことは言っていられません。新築供給の急激な減少で産業サイドは尻に火がついている。それに、住宅ストックが増えたことで、賃貸であれ、所有であれ、生活者も自分の住みたい物件を見つけだせる可能性も高まりました。今年以降、中古物件の活用は一気に進むと思う。

 ―― ここ最近、拡大しているリノベーション物件はその波頭ですね。

 松村 そう思います。私はリノベーション住宅推進協議会の特別会員に名を連ねていますが、リノベーション住戸が増えているのは、「中古住宅をまったく新しく再生させて住みたい」という生活者の需要が顕在化しているため。だからこそ、リノベーションを手がける際のルール作りや今後の政策の受け皿として協議会を作ったわけでしょう。リノベーション住戸の増加や協議会の発足は中古活用の1つの表れですね。

 ―― 消費者の新築信仰も薄らいでいる。

 松村 過去に終身雇用を前提に多額の住宅ローンを組んでいた時代がありましたが、今の若い世代にとって、長期に多額のローンを組むことはリスク以外の何者でもありません。従来であれば新築を購入していた人が賃貸物件に移行する。あるいは、内部がきれいになるのであれば、より安い中古で構わない。こういう感覚に、消費者も変わってきていると思う。本当に一気に変わる可能性が高いですよ。

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著者プロフィール

篠原 匡(しのはら・ただし)

昭和50年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。以後、主に「日経ビジネス」の記者として活動している。趣味は競艇と出張、庭いじり。著書に『腹八分の資本主義』(新潮社)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)がある。



このコラムについて

理想の住まいは私が作る

2009年の新設住宅着工戸数は78万8410戸にとどまった。新築供給が80万戸を下回ったのは1964年以来、45年ぶりのことだ。この国では40年以上も100万戸を超える大量供給が続いていたが、かつてのように新築が大量供給される時代に戻ることはないだろう。これからの時代、生活者は理想の住まいをどのように手に入れればいいのか。そして、住宅に関わる企業はどこに活路を見出すべきなのか。識者のインタビューやケースで考えていく短期集中コラム

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