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「変わる味覚」を知って「変わらぬ味」を作る

舌が感じ取る味、脳が生起する味(その3)

2010年2月19日(金)

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 コメの記事を書くようになって、その分野の書籍を濫読しているが、横尾政雄編の『米のはなし』(技報堂出版、1989年)に「米の味を測る」という章があった。これは、と思って読み進めたが、そこに「ベロメーター」なる言葉が登場する。さては味覚を測定する装置が出ているのかと期待したが、著者に一杯食わされてしまった。ベロメーターとは舌=ベロのことなのだ。人間の舌に優る食味測定装置は今のところ存在していないという内容だった。

 だが、これも読書の結果知ったのだが、『米のはなし』が刊行された後に、実は「ベロメーター」は、比喩の域に留まらず、実在することになった。

味を感じるプロセスを再現する

 インテリジェントサイエンステクノロジー(神奈川県厚木市、池崎秀和社長)は、「TS-5000Z」という味認識装置を商品化している。この装置には、九州大学大学院システム情報科学研究院の都甲潔教授が開発した「味覚センサー」技術が使われている。

 「味を測るセンサーである<味覚センサー>を作ろうと思いついたのは、1985年だった」。都甲教授は、著書『プリンに醤油でウニになる』(ソフトバンクパブリッシング、2007年)でそう書いている。

 都甲教授の着想は2点においてユニークだった。まず味を感じさせる個々の化学物質を特定するような、いわば還元主義的な作業を行わないこと。これは、多くのバイオセンサーが、ほかの要素の影響を受けずに対象を選択的に測ることを理想に掲げて開発されてきたのと全く対照的だ。味覚センサーは、特定の化学物質のみを選択的に相手取って計測するものではないのだ。

 そして2点目は、人間が感じる味そのものをセンサーからの出力情報に持つことを目指した点。つまり、第1点で個々の化学物質を特定することを放棄しているので、個々の化学物質への選択的な応答をセンサーはしなくてもいい。しかし、出力においては人間が味を感じた時と同じ情報の出力を含むことを目標とした。少し長くなるが、都甲教授の『味覚を科学する』(角川書店、2002年)から引用してみる。

 バイオセンサーを研究していた研究者は皆、センサーで特定の化学物質を測ってからその出力を適当にコンピューターで処理したら味が分かるのではないか、と思っていた。 しかし、この発想ではうまくゆかないのである。なぜか? それは、味とは化学物質の属性ではないからである。化学物質がもともともっている個性ではないのだ。他方、質量はその物質がもっている固有の量だ。質量は人とは無関係に存在する。しかし、味は人がいないと意味がないのである。

 実際このことは食品関係の研究者や味覚生理学の研究者は知っていた。味に関する当時の本に、「味とは人が感じるものであるから、センサーや計測機器で表現することはできない」と書かれている。

 これを素直に信じてしまうと、ここで話は終わってしまう。少し発想を切り替えよう。つまり、もし味というのを脳で感じる味ではなく、舌で感じる味に限定したらどうだろうか。酸味や甘味といった狭義の味だ。

 そして都甲教授は舌で味を感じるプロセスを人工的に再現できないかと考える。つまり味細胞の中の味を感じる部位である生体膜にできるだけ近い性質を持つ膜を人工的に作り、味細胞が味を感知して発生させる電気信号と同じ信号を出すように工夫する。そうすれば人間と同じように味を感じる装置が作れるという発想だ。

 生体膜を人工的に再現するといっても、話題のES(胚性幹)細胞やiPS(ヒト人工多能性幹)細胞のように、実際の細胞をバイオテクノロジーで作り出すわけではない。再現が目指されるのはあくまでも味覚という機能なのであり、味細胞そのものではない。そこで都甲教授が選んだのはポリ塩化ビニールに若干の可塑剤、そして脂質を組み合わせて膜を作る方法だった。

 この膜に味を感じさせる物質、グルタミン酸ソーダやキニーネなどを触れさせると電荷が立ち上がる。この電荷の立ち上がり方を「塩味」「苦味」「甘味」「酸味」「うま味」という5つの基本味を示す物質を触れた時に、それぞれ異なったパターンを示すように、脂質にデシルアルコールやオレイン酸、ジオクチルホスホートなどを用い、配合を変えたりして8種類の人工膜を作る。

 この8種類の人工膜を使ってセンサーを作ると、電荷の立ち上がりパターンからそれが何の味であるか感知できる。まさに舌=ベロが味を感じているプロセスを人工的に再現してみせたわけだ。

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