「ニュースを斬る」

「東証マザーズ第1号」オーナーの身に起きたこと

民事再生法違反事件で逮捕された黒木正博容疑者

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2010年2月23日(火)

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 トランスデジタルを舞台とする民事再生法違反事件が警視庁組織犯罪対策総務課などの共同捜査本部によって摘発された。2月15〜16日にかけて次々と逮捕された容疑者は、後藤幸英社長ら計6人。株式市場の歴史を知る者にとって、その中には、懐かしい名前があった。

 黒木正博容疑者、44歳――。東証マザーズ第1号だったリキッドオーディオ・ジャパンのオーナーとして知られた人物だ。

 警察発表によると、逮捕時の職業は「会社役員」。代表取締役を務める先としては、東京都港区に「アイナチュラル」なる会社が発見できるが、目的欄に「臍帯血の保管並びに研究」などとある同社の活動実態は乏しい。IT(情報技術)バブルで一躍脚光を浴びたベンチャー経営者はどんな転落の軌跡を辿ったというのだろうか・・・。

ITバブルを象徴する“成功”

 今から10年前の2000年1月31日。黒木容疑者は至福の瞬間を迎えていた。2カ月前に東証マザーズに上場したばかりの音楽配信関連企業リキッドオーディオ・ジャパンはこの日、都内の帝国ホテルで盛大な記念パーティーを開いた。小室哲哉や浜崎あゆみ、つんく、SPEED、藤原紀香ら錚々たるアーティストやタレントも駆けつける豪華な式典に多くの人が目を丸くした。

 4日後、同社の株価は1221万円の上場来最高値をつけ、時価総額は実に1500億円を突破した。

 リキッドオーディオ・ジャパンは非上場のダイレクトマーケティング会社「スーパーステージ」を親会社としており、そこの創業社長が黒木容疑者だった。IPO(新規株式公開)ブームに火を点けた東証マザーズの開設構想が1999年9月に発表されるや、それにうまく乗った黒木容疑者は第1号銘柄の栄誉を獲得、30代半ばの若さにして、巨万の富を得たのである(もっとも、この富は計算上だけで存在するバーチャルな価値でしかなかったのだが)。

 ダークスーツの下にドレスシャツを着こなし、髪の襟足を伸ばした黒木容疑者は横浜市出身で1965年生まれ。慶應義塾大学在学中からビジネスを手掛け、いわゆる青年実業家の部類に入る人物だった。学生時代は「パーティー屋のようなことをしていた」(知人の人材派遣会社社長)とされ、年配の女性経営者からは「クロちゃん」と愛称で呼ばれていた。その後、次々と飲食店経営や格闘技興行の新会社を作るなどして、事業を多角化していった。

 黒木容疑者のビジネススタイルは米国のフランチャイズビジネスを日本に輸入するというものだった。リキッドオーディオ・ジャパンのほかにも、パソコン学習の「ニューホライズン・ジャパン」や、フランチェイズ支援の「フランコープジャパン」といった会社を経営していた。当時、ニューホライズン・ジャパンについても上場計画が進行中だった。

 リキッドオーディオ・ジャパンは売り上げ実績がほとんどなく、ビジネスモデルの斬新さだけで上場したような、ITバブルならではのベンチャーだったが、加えて上場時から黒い噂が囁かれていた。黒木容疑者は上場直前、東京大学卒業で3歳下の部下をリキッドオーディオ・ジャパンの社長に据えていた。その部下はかつて暴力団と親密な外車販売業者の下で働いており、退職後に金銭トラブルを抱えたなどとされたのである。

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著者プロフィール

高橋 篤史(たかはし・あつし)

ジャーナリスト。1968年愛知県生まれ。93年早稲田大学教育学部卒業。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て、2009年よりフリーランスのジャーナリスト。著書に『ドキュメント ゼネコン自壊』『粉飾の論理』(いずれも東洋経済新報社)がある。



このコラムについて

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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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