「経済学っぽく行こう!」

07 経済成長すれば、財政も年金も心配なくなるの?

『日本経済復活』その2

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2010年2月26日(金)

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(前回「デフレの正体は『思い出より、おカネ』と思う心にあり」から読む

―― さて、続きです。前回は、消費をしないということよりも、おカネを大事にする、つまり物よりお金の価値が相対的に高まっている状況が「デフレ」なんだと。だとすると、自罰的な「耐える」方法論は解決の糸口にはならないというお話だったかと思います。

 そこで最初に取るべきは「目標を明示した金融緩和」というのが、『日本経済復活 一番かんたんな方法 』の主張ですよね。

 具体論は本を読んで頂くとして、このような、「デフレと、デフレからの脱却」に関連した議論を聞いていて気になるのは、お互いの時間軸を合わせた話になっているんだろうかという点なんです。「目先、短期的に考えてこういうことをすべきでしょう」というお話と、「中長期の方針としてこうあるべきでしょう」というお話、さらにいえば「自分たちの子供、あるいは孫の世代のために」という長期、超長期の話がとっちらかって、実りの少ない論争の形になっているんじゃないかなと思うんですよ。

 で、聞いている方は「もう理屈はなんでもいい、我慢しろと言うならするから早く方針を見せてくれ」となっちゃうんじゃないか。

日本経済復活 一番かんたんな方法 』(光文社新書 勝間和代、宮崎哲弥、飯田泰之著、シノドス企画・編集)

飯田 長期と短期の論点の混在が、将来への議論の方向性を見失わせている、と。なるほど。僕の主張は明確です。長期的には人材の流動化、規制緩和、民営化、全部必要です。そして再分配政策の見直しも必要。そして強力な金融緩和も必要というわけです。これらは別に排他的な話ではないですよ。

荻上 「脱デフレ」と叫ぶ際にしばしば誤解されがちなのですが、飯田さんの主張は、「お金を刷れば全部解決」「デフレ脱却すれば万事OK」といった「バブル万能論」的な話ではありません。日本経済が抱えている問題は複数あり、一つの政策で何でも解決できる、というようなものではない。新書媒体ゆえに、タイトルはもちろん「煽り」込みですが、「これだけでいい」「他は全部だめ」とは書いていませんから。

改革の「代わりに」リフレを、ではない

―― 構造改革や規制緩和などの代わりに、リフレを、という話ではないんですね。

飯田 そういうことですね。で、その中で比較的目先の話としてなぜ金融緩和の継続性を明確にする必要があるのか。ここで重要になるのが、潜在GDPと実現GDPの差というやつなんですね。

 潜在GDPというのは、失業率が日本でいうと3%代後半、資本稼働率、鉱工業生産指数の稼働率指数が100ぴったり−−設備がほぼ通常運行しているという状態です−−で、達成できるGDPが、だいたい510兆〜520兆円だと思うんですよね。

荻上 「完全雇用が実現したとき」という場合、日本の労働人口が全員働いている状態=失業率0%、という意味ではない点には注意が必要ですね。

飯田 そうですね。だいたい失業率3.5%ぐらいで理論的な意味での「完全雇用」でしょう。働きたくない人もいるでしょうし、どんなに景気がよくても転職期間中の失業は発生しますから失業0%というのはあり得ません。

左:荻上 チキ 氏 右:飯田泰之 氏
(写真:大槻 純一)

 今、日本のGDPは470兆円なんですけれども、失業率3.5%の均衡雇用量になって、稼働率100の均衡設備利用状態になって、その状態で達成されるGDPとの差がだいたい40兆前後。この分は投資も構造改革も何もせずにあげることが出来る。

 年収の1割分をマクロ経済政策の失敗によって「損している」というわけです。使える労働者・資産を活用していないせいで年収1割を失っている。これは大変もったいないことですよ。取りあえずもったいないことをするのはやめようと。

 その上でもっと収入を増やしていくためには、やはりもっと大枠で大胆に自由化、改革、そして技術進歩しかないんです。約10%ということは3%成長を3年分です。それをいまある物だけで、マクロ経済政策で獲得できるんですからやらない手はないでしょう。

――ここで私は、「需要を補うんじゃなくて、余っている供給側を廃棄・転換する方法はどうなんだろう」、とすぐ思うのですが。

飯田 それこそがここでいう「システムの改革」だ、ということですね。

―― あ、つまり、手間と時間がかかる「システムの改革」をしなくても済む部分があるなら、そこを先に使ってしまおうと。改革が完了するまで我慢するんじゃなくて。

目先できることをまずやっておこう

荻上 経済って「我慢すればよくなる」とか、そういうものではないですからね。構造の最適化はもちろん必要でしょう。それが、そもそも「AかBか」の二択しかないように設定され、それぞれの最適度合いが吟味されないことの問題が大きいんです。

飯田 がんがん使った方がいいときというのもあるわけです。使う先は、このデフレギャップ、潜在GDPと現実のGDPの差を埋めるのを、まず目先でやった方がいい。

 システムに対する改革は、やっぱり短くても10年計画くらいは必要です。姉歯先生とお話ししたオランダのワッセナー合意に基づく労働市場改革(記事はこちら)なんかは20年計画でやったんですよね。改革には時間がかかる。でも改革が完遂しなくてもなんとかなる部分はさっさとやればよい。

銀座で豪遊、クルマに別荘、百貨店で宝飾品…がリフレの目的?

――「リフレ政策」というと、とにかくおカネを市場に流せと。問題はその先で、流したおカネで、旧来からのビジネスモデル、商品、サービスなどを無理矢理生きながらえさせるんだ、というイメージがあると思います。実際、リフレ派の中にそう思っている人もいるのかもしれない。

 前回へのコメントで「別荘や高級車、毎月の海外旅行、ジュエリーやブランド物や、ましてや使いもしない土地・マンション、ゴルフ会員権を買いあさったり、愛人囲って銀座で豪遊したいって、今更思う人が大勢いるかね?」という声を戴いたんですが、これもおそらくそういう理解でお話を捉えていますね。

飯田 うん、僕もゴルフ会員権なんて買わない。銀座の豪遊はいっぺん体験はしてみたいかも(笑)。おカネを増やしても、これまでと同じ消費が戻るとは僕も思いません。この方も言われるとおり、需要は変化しているわけで、それを捉えきれずに消えていくプレーヤーは当然出てきます。でも、そういう入退場も、不景気の中よりおカネが回っている中で起こる方がいいはずです。

荻上 案外勘違いされていますが、統計で見ても新しいビジネスは、好況下の方がやはり生まれやすいです(これについての実証研究例などを知りたい方は『日本経済復活』P.51〜を参照)。

――短期はリフレ、それが中長期の改革に繋がると。

飯田 この本の中でも取り上げましたが、中長期の改革策と短期のリフレ策を、対立するように扱ってしまうのは非常によくないんですね。そして積極的に対立させて論じる人も、リフレサイドにも反リフレサイドにもいるんですよ。これは大変困ったことで、時間視野が違うんだと。両方やるべきなんだと。

―― そういう理解でいいんですね。本来別の時間軸の話をしているのに、趣旨の違いだと誤解されてしまう。

荻上 ターゲットも違えば、タイミングも違うので、宮崎哲弥さんが述べるように「応病与薬」でいいはずなんです。ただ、医者の例えで言えば、互いを「ヤブ医者!」「誤診!」と論難しあう様ばかりが、一般には目立ってしまう状態が続いている。相手が誤診であることと、自分の診断が正しいことは、もちろん別ではあるはずなのですが……。

―― そりゃそうだ。

飯田 そもそも論として「ケーザイ学者さん達は経済成長をしなければいけない理由をきちんとわかりやすく説明してくれないかなぁ〜」という声もいただいていますので、これはもうそのまんま、『経済成長って何で必要なんだろう?』を読んでいただければと。

―― この連載「経済学っぽくいこう!」のきっかけの本でもありますので、ぜひ。

リフレと財政再建の関係は?

―― さて、時間軸の視点とも絡みますが、「将来への不安」が景気の足を大きく引っ張っていますよね。いくら懐にお金がはいってきても、先行きが心配だと預金してしまうだけじゃないか、と。いずれ将来税金や年金で取り上げられるんだろう、という気分もあるかもしれません。

 そこで、財政再建についてはどうですか。

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著者プロフィール

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集を経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長、編集委員を務めた後、2010年4月から日経ビジネスアソシエ副編集長。ツィッターはこちら

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