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「お産難民」――医者も妊婦も救われない少子化対策

開業産科医の58歳男性のケース

  • 小林 美希

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2010年3月1日(月)

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 「資金繰りのことを考えると、夜も眠れなくなった」

 東京都江戸川区で開業して約20年。ベッド数19床以下の街の診療所として、江戸川区の本院と江東区の分院で、それぞれ年間に約400件ものお産に携わっている、池下レディースチャイルドクリニックの池下久弥院長(58歳)は、この半年ほど頭を悩ませている。

 開業してからしばらくの頃は、それこそ、24時間365日フルで働いた。産科医が訴訟リスクや過重労働によって分娩をやめていく中、「お産が好きだから」という思いで地域で踏ん張ってきた。今では同クリニックは、常勤医2人体制で、さらに当直にはほかの医師が入り、地域の産科医仲間との連携によって深夜の緊急帝王切開の手術にも対応できる体制を維持している。

 池下院長への取材中も、妊婦が高血圧症候群を起こし、その対処に追われ、息つく間もない様子。妊婦はいくら正常な経過を辿っても、どこで急変するか分からないため、最後の最後まで気は抜けない。それでも「私は、まだまだ恵まれている」と言うのだが、その根底を揺るがす事態が起こっている。

「少子化対策」の落とし穴

 2009年8月から、池下院長は眠れぬ夜を過ごすようになった。今まで妊産婦に支払われていた「出産育児一時金」(以下、一時金)を分娩施設に直接支払われる「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払い制度」(以下、直接支払い制度)が2009年10月からスタートする、その内容を知ったからだ。

 これまで、健康保険や国民健康保険などの被保険者となる妊婦が一時金(現行で42万円)を出産後に受け取っていたため、分娩時に分娩費用の数十万円を自分で用立て支払っていた。ただ、出産適齢期の世代の雇用不安などを背景に、少子化対策の一環として、分娩前に妊婦がまとまった資金を用意しなくてもいいようにと考えられた。

 お産を扱う診療所(19床以下)や病院(20床以上)、助産所などの分娩施設が事務手続きを代行することで、一時金が直接、最終的に費用を受け取る側となる分娩施設に支払われる仕組みとなるのが直接支払い制度となる。制度のスタート前は、妊産婦だけでなく分娩施設にとっても、分娩費用の未払い問題が解消されるメリットがあるとされていた。

 実際には大きな落とし穴があったのだ。

 直接支払い制度の欠陥は、そもそも分娩施設が費用を肩代わりするところにある。現場では、書類作成など手続きが煩雑になり、そのためだけに事務員を1人雇わないと仕事が回らなくなるという。

 最大の問題は、分娩1件当たり42万円の一時金は、申請してから一時金が支払われるまで、おそよ2カ月のタイムラグが発生することにある。池下院長の場合、経営する2つのクリニックでは月平均で70件近くのお産があり、2カ月分を立て替えるとなれば、その分だけでも5880万円に上る。

 余剰金がなければ、その分を借金で賄うしかないのだが、借金をすれば利息も支払うことになり、未収入金については売掛金と見なされ課税もされる。池下院長は、「元金だけでなく、所得税や住民税、利息の返済分を考えると、例えば4000万円の未収入金に対して、3倍近くの1億2000万円の借金をしなければならなくなる」と、大きな危機感を募らせた。

 クリニックの開業時、初期投資の土地や建物に対し1件当たり4億円を金融機関から借り入れた。まだ返済期間は10年以上残っている。その返済分や人件費、材料費などの諸経費で収入の95%を占めるため、余剰金はないに等しい。このほど、ようやく産科や小児科の診療報酬が引き上げられたが、総合病院ですら、産科や小児科は医師不足に加え、不採算部門として次々と廃止されてきた。産科だけを扱う病院や診療所では、ほかの利益の出る診療科からの資金流動もできず、余剰金は出にくくなる。

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