「ニュースを斬る」

日本人の悲観中毒を治そう

反競争・バラマキ政策は症状を悪化させるだけ

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2010年3月10日(水)

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 「GDP(国内総生産)規模で中国に追い抜かれ、世界第3位に転落する」
 「バブル崩壊の1990年以降、日本経済は成長が止まり、一方で世界は日本以外すべてが成長」

 こうした「事実」に基づいて語られる日本経済悲観論にうんざりしているのは私ばかりではあるまい。こうした「事実」は嘘ではないが、問題はそこから抽出される含意にある。

グラスに半分のワイン…をどう見るか?

 よく言われるたとえだが、データが示す事実は「グラスにワインが半分入っている」と言うようなものだ。この事実から「もう半分しか残っていない」と嘆くか、「まだ半分もある」と思うか、それが人間の幸不幸感や行動選択を左右する。ところが日本ではネガティブな含意ばかりが横行しやすい。

 とにかく日本人が悲観論や危機感の強調に傾斜しやすいことは、以前このコラムでも書いた(「危機感駆動型ニッポンの危機!?ネガティブなニュースの濁流に流されるな」、2008年3月12日)。2008年後半からの世界不況を経て今の日本に見られるのは「悲観論中毒症候群」ではなかろうか。

 「危機感駆動型ニッポンの危機!?」で指摘した通り、今の日本の危機感の横溢は、それをバネに局面を打開し、変革を実現するというよりも、むしろ自己暗示的な自縛や閉塞を生んでしまっていると思えて仕方がない。

 では冒頭に掲げた「事実」からどういう別の解釈、含意の抽出が可能になるか。
 例えば、あなたは年間所得1000万円から1100万円に増える生活と、年間所得100万円から200万円に増える生活を比べて、どちらを選ぶだろうか。私だったら間違いなく前者を選ぶ。過去10年間の日本と中国のGDPの変化が意味していることは、大雑把にはこういうことだ。

 もっと正確に言うと、2000〜09年の期間で日本人の1人当たりGDPは2万5334ドルから7483ドル増えて3万2817ドルになった(増加率29.5%)。一方で中国人の1人当たりGDPは2377ドルから4169ドル増えて6546ドル(増加率175%)になった(いずれも購買力換算ベース、出所:IMF World Economic Outlook Data Base, October 2009)。

 もちろん、中国では急激に所得格差が広がっているので、金持ちも大勢生まれているから平均値で比較できない面もある。だからと言って、日本も同様に格差拡大で金持ちを生み出したいとは普通の人は思わないだろう。

 先進諸国の成長率が相対的に低いことは悲観する必要がない。テイクオフした経済がキャッチアップ過程を経て、成熟し先進国の水準になると、趨勢的な成長率は概ね一人当たり2〜3%に収斂する傾向が見られるからだ(年率3%で20年成長すると複利で約1.8倍になる)。

 また、「1990年以降、日本経済は成長を止めてしまった」というのはどういう事実だろうか。例えば次のような日本の経済成長だけがほぼゼロになっているように見えるグラフが提示される(「経済学っぽく行こう!2」「デフレの正体は『思い出より、おカネ』と思う心にある」、2010年2月18日)。この対談の飯田・萩上両氏の意図は、日本悲観論の強調ではない。しかし、この図表を見た読者は「ああ、やはり日本だけ成長ゼロなんだ」と思ってしまうだろう。

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著者プロフィール

竹中 正治(たけなか・まさはる)

竹中 正治

龍谷大学 経済学部教授

1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月から2009年3月まで国際通貨研究所チーフエコノミスト、2009年4月より現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)、「なぜ人は市場に踊らされるのか?」(日本経済新聞出版社、2010年)など。



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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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