「守るべき弱者はどこにいる?」

「働きづめ」で得るもの、失うもの

新聞社記者の32歳女性のケース

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2010年3月15日(月)

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 「あんな働き方をしなければ良かった」

 後悔の念に駆られた。

 大手新聞社記者の岩渕智美さん(仮名、32歳)は、マスコミ業界での過労は当然と思っていたが、妊娠・出産をきっかけに考えが大きく変わった。

 2002年に旧帝国大学を卒業。周囲の友人は中央官僚を目指す中で、智美さんは大手新聞社に入社した。社会部記者として、「サツ回り(警察回り)」の日々を過ごした。重要な情報をつかむために、深夜や早朝に警察官僚を自宅前などで待ち伏せて話を聞き出す「夜討ち」「朝駆け」も毎日のように行った。他社にネタを“抜かれる”ことはもちろんご法度だが、社内の記者間でも競争は激しい。

 難しいスクープをどんどんと世に放つ“スター記者”がいる一方で、智美さんはなかなかスクープらしいスクープを取れない自分との才能の差を感じると、「取材を重ねるしかない」と躍起になった。飲み会も重要な情報源。進んで情報源となる人を飲みに誘い、浴びるほどお酒を飲んだ。情報を得るには、昼も夜も平日も休日もない。

楽しい仕事、その裏に妊娠の不安

 3年ほど前に、経済部に異動した。その頃、交際していた同僚と30歳で職場結婚した。すぐにでも子どもが欲しいと思っていたため、交際していた頃から、子どもは自然の流れに任せていたため、いつ妊娠してもおかしくない状態にいた。

 そうした中でも、職場はもちろん取材先は特に、智美さんのプライベートな状況は知る余地もない。相変わらず、お酒の席に誘われ、急に断ることもできない。内心「子作り中だから飲みたくないのに」と思いながら、飲酒の量を控えていると、お構いなしにお酒を注がれ、飲まざるを得ない状況になる。

 智美さんは「この業界で、子どもが欲しいからお酒を飲まないなんて言ってしまえば『だから女はダメなんだ』と言われるだけ」と諦めた。相変わらず、終電をとっくに過ぎた時間まで仕事は続く。深夜の1時、2時まで会社にいることなんて当たり前。土日もない。

 数カ月間、全く休みがないこともある。もちろん、仕事は楽しいが、これで妊娠しても大丈夫なのかという不安を常に感じていた。

 なかなか子どもが授からないことに焦りを感じた智美さんが、月経不順も気になり婦人科にかかると、排卵していないことが分かった。自分が不妊の取材をすることはなかったが、新聞などで不妊治療の記事を読む機会は多く、自身が不妊症であることが分かると、さすがにショックは大きかった。医師に仕事の状況を話すと唖然とされた。

 「そんな働き方では、子どもはできない」

 医師の言葉はずしりときたが、どうしようもない。ジレンマばかりが募ってくる。

 智美さんのように、月経不順や月経痛を放置していたり、我慢したりする女性は少なくないが、実は、軽く考えてはいけないのだ。

 愛育病院の中林正雄院長によれば、「月経痛にほかの症状が重なる子宮内膜症を強く疑わせるものは、女性労働の約7%に該当する。子宮内膜症を放置すれば症状が悪化し、妊孕性(妊娠する力)を低下させるリスクがあるため、早い段階での産婦人科の受診が必要」と指摘する。

 だからこそ、労働基準法でも「生理休暇」が認められており、本人の請求があるにもかかわらず休暇を与えずに就業させた使用者は30万円以下の罰金に処せられる。ところが、「生理休暇」どころか、働く女性が気軽にクリニックに行ける環境ではないことが問題となる。

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著者プロフィール

小林 美希(こばやし・みき)

労働経済ジャーナリスト。1975年茨城県生まれ。明治学院大学中退、神戸大学法学部卒業。株式新聞社、毎日新聞社エコノミスト編集部で記者として働く。2007年2月よりフリーになり、若者の雇用、出産・育児と就業継続などのテーマに取り組む。主な著書に『ルポ 正社員になりたい ――娘・息子の悲惨な職場』(影書房)、『ルポ “正社員”の若者たち 就職氷河期世代を追う』(岩波書店)



このコラムについて

守るべき弱者はどこにいる?

「派遣切り」「名ばかり正社員」・・・。日本の労働環境の悪化に伴う雇用不安が人々の生活を脅かす。社会がきしみ、変化に揺れている中で今、何が必要なのか。個々の働き方や生き方を通して、国、企業、個人ができることは何かを探っていく。

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