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「ボルカールール」は機能しない

  • 濱田 康行

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2010年3月18日(木)

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 米金融機関の投機的な動きを規制する「ボルカールール」が発表された。オバマ大統領の呼びかけにより、米国のポール・ボルカー元FRB(連邦準備委員会)議長が中心となってまとめた金融規制の追加策だが、幾つかの問題がある。

 大統領がルールと呼ぶ柱は3つ。(1)ヘッジファンドや不動産ファンドへの投資を禁止。(2)自己資金による高リスク商品への投資を制限。これらは一般から預金を集める商業銀行に適用する。そして(3)金融機関が大きくなりすぎるのを防ぐことだ。

 その昔、ナローバンキング(狭い銀行業)という主張があったことを思い出す。米国で1980年代に多くの中小銀行やS&L(貯蓄金融機関)が破綻した。その教訓から「危ないものには手を出すな」「預金を預かっている銀行は安全な資産のみを持て」という主張がなされた。1990年代の末、日本の銀行危機に際して、この単純な“理論”が輸入されて、一時は学会でも支持者が拡がった。

 理論の元はトービンほかの著名な学者である。預金を集める銀行は安全資産のみを持ち決済機能だけを行う。貸し出しは行わない。こうした狭い業務範囲しか持たない銀行は歴史上も存在した。振替銀行(Giro Bank)などと呼ばれるものである。しかし、それは19世紀の欧州での話だ。

 そもそもお金のビジネスは単純である。お金は単一商品だ。外国為替取引を前提にすればお金は世界単一商品でもある。こういう性質の商品は大量に扱う方が効率的になる。お金を大量に扱う際にいつも問題だったのは輸送と安全であったが、IT(情報技術)革命の行き渡った今ではそれもクリアーした。だから銀行、証券、保険まで全てが営まれる、いわゆるアル・フィナンツが理想型なのだ。

 歴史的には多くの曲折があった。それは、利益相反と数々の暴走現象が生じたからだ。そこで金融業をバラバラに分離することを思いついた。米国で銀行と証券業の兼業を禁じたグラス・スティーガル法(GS法)はその象徴である。しかし、その後の資本主義の発展の中で、この分離型の金融業の非効率が目立ってきた。金融革命が先進国で同時に進行し、1999年にGS法は廃止されたのである。

 ところが今回、80歳を超える米金融界の大物が、大統領の顧問になり、この流れを止め、再びGS法の世界に戻そうというのである。

リーマンショックの犯人探しの帰結

 どうしてこんなことになったのか。事の発端は言うまでもなく、リーマンショックによる世界金融危機だ。そして、この間違いの源流は、危機をめぐる単純すぎる犯人探しにあった。

 世界金融危機の原因は、金融界の一部の人々の“強欲”にある。その欲望を追求できる装置があり、その制御がなされていなかった、というのである。ではどうすればよいのか。“強欲”は人間の性であり消せそうもない。そうすると装置だ。欲望があっても、それを展開するための装置が動かなければ、手を縛られたのと同じである。さらに機械を機能ごとに分解してしまう。これがGS法やナローバンク論の精神である。

 しかし冒頭に述べたようにお金のビジネスは統合を理想とするから、分離案は歴史の逆コースであり、大物の提案であっても実現しないだろう。世界のどこかの国の金融機関が統合型であれば、分離型の金融はそれに勝てないであろう。だから世界同時に分離型を目指さなければならないが、米国にはそんな統率力がもはやないのは明らかである。

 もう1つ大事な論点がある。ボルカールールは金融業による(特に預金を集める機能を持つ機関)ビジネスの拡大を止めようという意図がある。仮にリーマン・ブラザーズがデリバティブを拡大せず、地味にやっていれば破綻しなかったのかもしれない。北海道拓殖銀行がナローバンキングを忠実に実行し、不動産ビジネスなどに手を伸ばしていなければ倒産しなかったかもしれない。しかし、これこそ、あり得ない仮定の話である。

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