「奥深き日本」

知られざる銘桜12選の旅

花見酒の味を深くする1本桜にまつわる物語

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2010年3月19日(金)

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 世情がどのように推移しようと、桜の季節はやってくる。南から北へ移動する桜前線は、ほんのいっとき浮世の憂さを忘れさせてくれる。なんてありがたい季節の到来だろうと心底から喜びが湧きあがる。

合戦場の桜。福島県岩代町の自慢の桜。樹種はベニシダレで、もしかしたら、三春の滝桜の子孫かもしれない。この付近は、その昔、奥州平定をめざす源義家と安倍貞任、宗任が戦火を交えた場所であり、桜の名称に転じた。花の見ごろは4月中旬
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 先週から今週にかけて、松山、高知、宮崎に熊本と開花宣言が出され、いよいよ花の季節の到来を印象づけた。そこで当コラムも去年に引き続き、各地の銘桜を紹介するタイミングを知ったのである。

 それにしても今年は早い。去年も記録的な早さ、と書いたことを覚えているが、それにも増して今年の桜は早咲きの予感がする。

 私は二十余年前からこのかた桜撮影に臨んできた。毎年、新たな桜木との出会いがあり、また、再訪する1本桜がある。とうぜんのことながら、今年も意中の桜があって、花狩りを兼ねて写真撮影を計画している。

“ツウ好み”の桜を紹介したい

 満開の予想は専門職に譲るとして、今回の桜の展覧について述べていこう。昨年は日本三大桜の一つ、福島県三春町の「三春の滝桜」を紹介した(「毎年30万人を癒やす一本の千年桜」)。

 今年は嗜好を変えてみようと思う。いわゆる“ツウ好み”の桜を織り交ぜようと企画した。自分だけが楽しんできた、あまり知られていない桜も紹介してみたい。隠れた銘桜については、開花情報が入りにくかったり、アプローチに難儀をしたりするが、花に出会えたときの感激はたとえようもない。

 老若男女を問わず、世間には厳しいことが多いこの頃だけど、ほんのいっとき、花狩りの気分を味わっていただければ嬉しい限りである。どこかで美しいものを見つけてきては皆さんに喜んでもらうことを生業とするカメラマンにとっては冥利に尽きる。

徳島県西祖谷山村付近の山桜。3月半ばから4月初旬にかけて、深い谷に電灯を燈したように開花する
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日本人と桜の切れないえにし

 この国の桜観は深く、広い。上古から科学的理解よりも観念的解釈に偏り、表象よりも深層に隠れた象を求めてきた。

 国民的な花に祭り上げられた桜は、芸術の分野に限らず、情緒的表現の最たる対象になってきた。狩野派も琳派も、はたまた、名を残さなかった工芸家や絵描きにしても、技と心的解釈の限りを尽くして桜を形象化することに血道をあげてきたのである。カメラマンの私もその末席にいる。

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著者プロフィール

宮嶋 康彦
(みやじま やすひこ)

宮嶋 康彦

1951年長崎県佐世保市生まれ。写真家、作家。東京造形大学講師。『紀の漁師 黒潮に鰹を追う』(草思社)、『誰も行かない日本一の風景』(小学館)、『蛍を見に行く』『この桜、見に行かん』(文藝春秋)、『花行脚・66花選』(日本経済新聞社)、『たい焼の魚拓』(JTB)、『脱「風景写真」宣言』(岩波書店)、『写真家の旅―原日本、産土を旅ゆく。』(日経BP社)など著書多数。自身のホームページでは写真と文章を毎日更新。

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