(日経ビジネス4月19日号82ページのリポート「日本の財政が破綻する」の詳細版です)
鳩山由紀夫政権は今、とてつもない愚行を犯そうとしている。郵便貯金を再び膨張させ、大きな政府に舵を切ろうというのだ。国債増発に依存し、ばらまきを続けてきた日本の財政はもう破綻寸前まで来ている。
鳩山由紀夫政権が「全国一律サービス」を旗印に、郵政民営化政策を見直そうとしている。日本郵政への政府出資を3分の1超とし、郵便貯金の預け入れ限度額を1000万円から2000万円へと大幅に引き上げるという。
民間金融機関は「民業の圧迫」と反対しているが、この問題は「民業の圧迫」と一言で集約される小さな問題ではない。郵政が象徴する「大きな政府」は、現在の景気低迷、財政危機を起こした元凶だと思うからである。再度、「大きな政府」に舵を切るのであれば「全国どこでも、郵便は翌日届く一方、国民の年金は消失」という事態に陥るであろう。
国債未達発生の日が近い
政府が「高福祉や全国一律」のサービスを提供し得るのはカネがあってこその話だ。「税収が足りなければ国債を発行してカネを集め、サービスを提供する」と言うのは簡単でも、それは国債を完売できての話である。「子ども手当」をばらまきたくとも「国家公務員の給料」を払う義務があろうとも、金が集まらなければ不可能だ。
私はこの、カネが集まらない、すなわち国債未達(入札で国債が完売出来ない)発生の日が近いと考える。10年国債の入札は毎月、月初に行われているが、すでに毎月、カネの集まり具合を懸念しなくてはならない時期が来ているのではなかろうか。
国債未達のニュースが市場に流れた瞬間、債券価格は大暴落(長期金利は急騰)する。債券先物市場は連日のストップ安で、数日間は市場が閉鎖状態になる。そうなると国債の保有者は、なんとか損を最小限に抑えようと現物債市場での売りに走る。
1987年には5月14日に89回債が2.55%を付けた後、10月12日には6.24%と、5カ月間で4%も上昇したが、今回はその上昇幅と速さにおいて段違いの激しさだと考える。
マーケット経験がない識者の中には「外国人が日本国債を持っていないから売り圧力は小さい」などと楽観論を述べる人がいるかもしれない。しかし、マーケットはそう甘いものではない。
彼らは「売り」先行で日本の市場に参入する
今までは参加していなかった年金資金や投機の外国人マネーが大量に入って来るのだ。喜んではいけない。彼らは「買い」で入って来るのではない。年金資金といえども「売り」先行で日本の市場に参入する。先物市場では「売り」も「買い」同様に簡単にでき、「売り」先行でも何の支障もないからだ。
財政破綻に陥った国の資産など持っていられない、ということで、株や円も急落する。資金繰りが苦しくなり潰れる企業が出て、失業者も急増する。国債を大量に持っている「ゆうちょ銀行」を筆頭に、棄損する「国債」を多く保有する金融機関には預金を引き出そうと行列ができるかもしれない。
取り付け騒ぎにでもなれば、日本銀行は座して事態を見守るわけにはいかない。市中で完売できなかった国債を日銀が引き受ける。過去に「ハイパー・インフレ(急激な物価上昇)」を引き起こした経験から、現在では財政法で禁止されている禁じ手の発動である。
また取り付け騒ぎを抑えこむために銀行保有の国債を日銀が買い取って市中に無尽蔵に資金供給を行うかもしれない。紙幣が街に満ち溢れ、貨幣の価値が急落する。すなわちハイパー・インフレ時代の到来だ。
「合法的徳政令」は最悪シナリオ
汗水たらして10年間でやっと貯めた銀行預金100万円を下ろして1回タクシーに乗れば消えてしまうということだ。年金を月々20万円もらってもタクシー初乗り2キロメートル100万円になれば、年金も「実質消滅」したのと同じだ。
一方、国の財政は大助かりである。私はこれを「合法的徳政令」と呼ぶ。国が約束通りに100万円の国債を償還してくれたとしても、手にした100万円でタクシー2キロメートルしか乗れなかったら、それは実質借金棒引きと同じだからだ。
以上が私の考える最悪のシナリオである。
景気が回復して徐々に円安になり、ゆっくり10%以下のインフレ率にあがれば、税収の伸びとセットで健康体に回復できるでしょう。この場合、ゆっくりでないと市場は混乱します。一方藤巻さんのおっしゃるとおり、もしも国債が消化できないという形でいきなり危機が表面化すれば、パニックになり、何が起きるか想像がつきません。でも前者のようにコントロールすることは至難の業で、後者の悲観的なシナリオほうが現実的に思えます。それがいつになるかという話では、2017年ごろに国際収支が経常赤字になるという予測があり、それが契機になるという話が出ていますね。ところでハイパーインフレの定義って、月に50%でしたっけ? 年率では13000%。さすがにこんなにインフレになる状況は想像できないです。戦後の混乱期にもこんなにインフレになったことはありません。藤巻さんもさすがにこれほどのインフレ率は考えていないんじゃないですか? ハイパーインフレって言葉を使うときには注意した方がいいですよ。(2010/05/10)