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活かせぬ国家資格に、歯科“空洞化”の予兆

歯科技工士の25歳女性のケース

  • 小林 美希

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2010年5月10日(月)

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 「友人の知り合いの中には、過労死した人がいたと聞いた。仲間は皆、半年足らずで辞めていく」

 歯科技工士の神戸由紀さん(仮名、25歳)は、深いため息をつく。手に職をつけ、一生働くことができる職業に就きたいと、高校を卒業後、都内の歯科技工の専門学校に入学した。歯科補てつ物(虫歯などを削った跡にはめる詰め物や被せ物)などの製作は、国家試験に合格した歯科医師と歯科技工士のみに認められている。

 由紀さんは専門学校を卒業後、より専門技術を深めようと大学の専攻科で1年学んだ。期待を膨らまし就職活動したが、技工業界は厳しい環境にあった。

 由紀さんが採用試験を受けるためラボ(ラボラトリー、技工所)を見学に行くと「週休2日あるラボなんて滅多にない。社会保険もなくボーナスもない」と話し、有給休暇という制度は、夢のまた夢のような感触だったという。そうした中でも一番に条件の良かったラボに就職した。月給23万円の正社員。

「離職したい」が4割以上

 歯科技工業界では、歯科診療報酬の保険点数の範囲内で作る補てつ物を中心に請け負う“保険技工士”と自費診療の補てつ物などを中心にする“自費技工士”に大きくタイプが分かれ、由紀さんは自費をメーンにしたラボで自費技工士に当たり、周囲の技工士仲間と比べれば月給は高い。ただ、正社員採用ではあるのだが、「社会保険は未加入、ボーナスはなし」という、正社員とは名ばかりの条件だった。

 実家から2時間かけて通勤していた由紀さんは朝6時に起きて出勤し、夜は終電で深夜1時頃に帰宅。残業代は支払われない。睡眠時間は4時間程度の生活を送るようになった。補てつ物や義歯1つ当たりの単価が安く、作っても作っても仕事が終わらない。由紀さんには恋人がいるが、休みが合わず月に2回程度しか会うことができない。

 このままの状態で、結婚生活や子育てができるとは想像できない。夜8時に仕事が終わる日は「今日はなんてラッキーなんだ」と飛び上がりたくなるくらい嬉しくなってしまう。残業が多く休みが不規則で、飲み会もドタキャンすることが多くなり、友人から遊びに誘われることも減っていった。

 それでも、由紀さんのラボはまだ良いほうだという。由紀さんの技工士仲間の中でも男性の場合、3日間も帰宅できず、寝袋を常備してラボに寝泊りしているケースは珍しくない。3カ月間、1日も休暇がなかった友人もいる。労働時間が長いうえ、小さな補てつ物を削っていくような細かい作業は集中力が必要で神経を使う。金属やプラスチックを削るため粉塵が飛び、どうしてもそれを吸ってしまうこともある。肌荒れも避けられない。専門学校の友人は次々と辞めていった。

 日本歯科技工士会の「歯科技工士実態調査」(2009年)によれば、技工士の平均年収は432万円。週労働時間の平均は53.5時間。男女別では、男性の平均年収は449万円(年齢46.1歳)で週労働時間は平均54.6時間に対し、女性の平均年収は263万円(33.4歳)で週労働時間は45.5時間と差がある。全体で週に51時間以上就業する人は半数強(52.5%)を占めている。4割以上が離職したいと感じており、その理由を「給与」と挙げる人は5割を超え、「将来性」を挙げるケースも多く見られるという。初任給の平均は16万8000円、基本給の平均は13万8000円だった。

 また、休日が決まっている人は勤務者でも半数にとどまる。年間休日が決まっている人の平均休日日数は全体で91.5日。「休日は決まっていない」とする人は16.4%であるが、その多くは自営者となっている。「完全週休2日」「何らかの週休2日」を合わせても週休2日制は4割程度にとどまる。「週休1日制」なども多くなっている。

コメント7件コメント/レビュー

軽々しくコメントできない内容だと思いました。このような状況では、一般国民が義憤を感じる兆候のひとつになるでしょう。投稿された方々のコメントにも多くの重要な指摘があります。(2010/05/11)

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

軽々しくコメントできない内容だと思いました。このような状況では、一般国民が義憤を感じる兆候のひとつになるでしょう。投稿された方々のコメントにも多くの重要な指摘があります。(2010/05/11)

妻が歯科技工士です。話を聞くとかなり精緻な仕事できちんとしたものを作るためには、高度な技術が必要なようです。「一生の仕事にするには家族が養えないが、パートで働くなら悪くない仕事」と言います。今は評判の良い歯科医に客が集まり、そうでない歯科医はカツカツなんだそうです。最近は歯科医師が減り、仕事も少なくなっているそうです。過当競争なのでしょう。皆、疲れています。(2010/05/11)

競争で淘汰されないのだろうか。合併して合理化、寡占化方向に力が働かないのだろうか。誰でもできる簡単な仕事ではないはず。経営者にそういう経営意識のある人がいないのだろうか。国内で淘汰される前に海外に仕事がいってしまう。労働もそうだが、会社というか産業の流動性がないことも日本の致命的な問題なのでは?資本主義のより自由な競争の結果は寡占化に向かうものと思う。米国などは顕著。しかし、日本は役所の保護などでそれら流動性を失っているのかもしれない。(2010/05/10)

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