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「基地経済」からの離陸(下)

軍用の島から、商業の中心へ

2010年6月15日(火)

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(「」から読む)

 不屈の精神で、沖縄市場を席捲した男もいる。

 県内の補聴器シェアで70%を占める琉球補聴器の森山勝也会長だ。彼もまた、波乱万丈の経営者人生を送ってきた。

 多良間島に生まれ、44年前に本島に移って家電販売会社に入社した。そして、補聴器の販売を担当する。そこで見たのは、医療情報が少ないための悲劇だった。母親が妊娠中に高熱になってもそのまま出産するため、聴覚障害の子供が大量に生まれていた。

「NOと言わない経営」

 87年、部下10人と退社して会社を創業する。ところが、信用も顧客もなく、「1年で潰れる」とささやかれた。

 「お客さんは来ないし、取引先に挨拶に行っても、相手にしてもらえない。独立したことを後悔する毎日だった」

琉球補聴器の森山勝也会長(那覇市の本社前で)(撮影:金田 信一郎)

 そう言う森山は、社員への給料支給が遅れないように、こっそり炊飯器やラジカセを仕入れて、友人に売って歩いて、ギリギリの資金繰りを続けていた。

 「社長、ちょっと話があるんですが」。社員にそう切り出されると、たいていは「退社したい」という相談だった。

 社員が退社してしまうのが怖くて、いてもたってもいられなくて、始業する2時間前には会社に着いてしまう。気を落ちつかせるためにも、社内を掃除して回った。そして、社員が姿を現すと「おはようございます。今日も1日、がんばりましょう」と頭を下げた。

 何度も「死にたい」と思った。ある日、宮古島に出張する飛行機に乗りこんだ時のこと。「このまま飛行機が墜ちたら、どんなにいいだろうか」。ふとそう思った。自殺すれば、社員や取引先から非難される。でも、事故死だったら、「社長さん、頑張っていたのに、残念なことになって」と言ってもらえる。

 「社員に一言も注文を付けなかったし、お客さんの言うことはすべて聞いた」

 電池が切れたと電話があれば、どこにでもバイクで駆けつける。購入してくれたお客さんの家には、離島でも月1回は訪問する。

 1年が過ぎた時、会社は奇跡的に生き残っていた。これで信用が高まる。そう思っていると、取引先から思わぬ反応が返ってきた。「まだ3カ月ぐらいだと思っていた」。

 「5年間、なんとか踏ん張った時、やっと周囲に認めてもらえるようになりました」

 それでも森山会長の愚直な取り組みは続いた。沖縄県には補聴器に関係する病院が約60カ所あるが、できるだけ対話を持つように工夫する。

 聴覚障害の患者は、なかなか補聴器を使おうとしない。ギリギリまで我慢してから使用を開始する。「補聴器を使えば、患者さんの生活は大きく改善されます。そこで補聴器の最新情報などを先生方に知っていただければ、多くの人々がよりよい人生を送ることができるんです」。

 そのためには、病院とのコミュニケーションが重要になる。だから、人と人との接点は疎かにできない。県内のすべての病院に、開院記念日に大きなケーキを贈っている。「そんなことをしても仕事は回さない」。そう言われても、次の年も贈り続けた。

 「仕事をもらうために持ってきたんじゃありませんから」

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「「基地経済」からの離陸(下)」の著者

金田 信一郎

金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)

日本経済新聞編集委員

1990年横浜国立大学経済学部卒業。同年、日経BP社入社、日経ビジネス記者、ニューヨーク特派員、日経ビジネス副編集長などを経て2014年より現職。産業、金融、経済事件を中心に取材・執筆。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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