「守るべき弱者はどこにいる?」

“働けない”同僚・部下をあなたは守れますか?

うつ病の会社員のケース

  • 小林 美希

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2010年6月28日(月)

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 システムエンジニアの窪田伸二さん(42歳、仮名、以下同)は、妻・留美子さん(40歳)と娘(5歳)、息子(3歳)の家族4人で、ついこの間まで平穏な暮らしをしていた。中規模ソフトメーカーで勤めていた伸二さんは、取引先企業の経営効率化などのコンサルティング業務もこなしていた。1日の労働時間が15時間に達する日も珍しくなかったが、残業代が支払われていたため、月給は40万円を超えていた。

 6年前、妻の妊娠が分かり、「家族のために頑張る」と一層、仕事に没頭しようとした矢先のことだった。それまで堅調に伸びてきた企業のIT(情報技術)投資がひと段落、その後に起きた景気の減速によって会社の業績が急激に落ち込んだ。

 そんなタイミングで伸二さんは昇格し中間管理職となった。収益に対する責任は増し、部下の人材育成にも目を配らなければいけなくなった。経験の浅い部下は景気が悪い時期は、なかなか結果を出せない。伸二さんは部下のフォローに回らざるをえなかったが、そこで時間を取られるために自分自身の成績を伸ばすことができなかった。

「出社する意味を見出せない」

 そんな伸二さんに対し、会社は“冷たかった”。いくら部下の分まで一生懸命にカバーしても、それは認められなかった。評価は、あくまでも伸二さん個人の成績によって下された。

 このため、働いても働いても残業代はつかず、かえって収入は落ち込む――。もともと責任感が強い伸二さんだけに、自分が置かれている環境に、過大なストレスを心の中に溜めていったのだろう。

 それが一挙に噴き出す引き金となったのが、ある時、伸二さんの上司が発した一言だった。

 「部下の面倒を見たからといって成績が落ちるのは、能力がない証拠」

 伸二さんは、やる気を急速に剥ぎ取られた。

 それから、当たり前だった毎日の出社に異変が生じた。朝起きると、頭痛に悩まされる。電車で会社の最寄り駅が近づくと、決まってお腹の調子が悪くなり、トイレに駆け込んだ。そのうち、吐くようにもなった。

 しばらくすると、朝、体が動かなくなった。こうなると、会社を休まざるをえない。そしてついには「出社する意味を見出せない」と、休職に踏み切った。

 子どもは「パパ、今日もお休みなの?」と無邪気に寄ってくる。しかし、相手をするのもおっくうになった。自殺したいという思いが頭によぎるようにもなっていた。ここに至って精神科医にかかって、カウンセリングを受けるようにした。

 伸二さんの変わり様に、留美子さんは当初は事実を受け入れられない気持ちでいっぱいだった。ただ、子どもたちのことを考えると、いつまでもそんなことは言っていられない。まずは自分がしっかりしなければ、と気を張った。

 厚生労働省によると、精神障害などで労災補償を請求する件数は年々増加している。2003年度は447件だったが、以降は年間100件ほどのペースで増え続けて2007年度には952件となった。2008年度こそ927件とわずかに減少したものの、2009年度は再び増加。1136件と、ついに1000を超えて過去最高となった。もちろん、すべてが伸二さんのように職場の問題というわけではないにしても、労災補償の請求まで行くのは氷山の一角と言われている。

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