米マイクロソフト元幹部が創業した発明ベンチャーが急成長中。「世界の大問題」を解決するためのファンドに5000億円がたちまち集まる。ビル・ゲイツ氏も認める新ビジネスが技術革新の常識を変えるのか。
新興企業の立ち上げを支援するVC(ベンチャーキャピタル)、不振企業を再活性化するPE(プライベートエクイティー)。これらに並ぶ新しい投資市場が創り出されようとしている。名づけて「インベンションキャピタル(発明資本)」──。ファンドを組成して巨額の資金を集める点はVCやPEと同じだが、投資の対象は発明や特許といった無形の知的財産だ。
この発明資本市場を提唱する米インテレクチュアルベンチャーズ(IV)が、2000年の設立以降、ハイテクバブルの崩壊や100年に1度と言われる金融危機を乗り越え急成長を続けている。
今年3月、IVが手がける事業の1つが日本で大きな注目を集めた。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、燃料交換不要で最長100年稼働し続ける原子炉の開発ベンチャー「テラパワー」に出資し、東芝の技術協力を取りつけたというニュースだ。
実はテラパワーはIVの事業の一部。しかも、ゲイツ氏が原発事業に商機を見いだして投資を決めたというよりも、IV側がゲイツ氏を説得して巨額の投資を引き出したというのが真相だ。

「世界の大問題を解決したい」
IVの共同創業者はネイサン・ミアボルドCEO(最高経営責任者)とエドワード・ジュングCTO(最高技術責任者)の2人。いずれも14歳で大学に入学したという秀才で、ミアボルド氏は英ケンブリッジ大学でスティーブン・ホーキング博士の助手を務めた数理物理学者。一方のジュング氏は生物物理学の専門家で、2人ともマイクロソフトの要職を務めた後、同じ時期に退職した。ジュング氏は当時をこう振り返る。
「ネイサンも私もお金のために働く必要は全くなかった。次は何をやろうかと語り合ううちに、世界のとてつもなく大きな問題を解決しようじゃないかと意気投合した。そのためには何千、何万という優れたアイデアを集める必要があったが、そんな仕組みはどこにもなかった。ならば自分たちで作ろうということになった」
その仕組みが発明資本市場なのである。ファンドを組成して資金を集め、特許を買い集めたり、新たな発明を生み出したりするために投じる。ライセンス収入や新事業の立ち上げで利益が出れば投資家に還元する。数十億ドル規模の資金で何千〜何万の発明や特許を扱うことで投資リスクを回避。VCやPEと同じ考え方に基づいている。
違いは、発明が利益を生み出すまでに長い期間がかかること。VCやPEのファンドは5年をメドに投資家へ利益還元することが多いが、発明資本ファンドの場合はその何倍もかかる。それでも、IVは既に約55億ドル(約5000億円)という巨額資金を集めた。
この資金を使って発明や特許を獲得する手法には、「自社独自開発(Build)」「既存特許買収(Buy)」「社外委託開発(Partner)」の3つがある。
自社独自開発のためには「発明会議」というユニークな手法を駆使する。ノーベル賞級の科学者やエンジニア、弁理士などを集め、特定のテーマについて数日間にわたり徹底的に議論する発明製造ブレーンストーミングである。前出の「100年原子炉」のアイデアは、この発明会議での議論が発端となった。高性能コンピューターによるシミュレーションや自前の「発明工房」で試作や実験を繰り返し、アイデアの実現性を検証しながら煮詰めていく。
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