「シアワセのものさしの続き」

外国産よりコストは4倍以上。それでも作りたい“小麦畑の醤油”

梅原真氏を動かした「島根のものさし」

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2010年8月5日(木)

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 2009年10月に連載を始めた「シアワセのものさし」。高知県在住のグラフィックデザイナー、梅原真氏の足跡を通して、ヒット商品を作る発想法や地域社会のあり方、個人の生き方などを考えた企画でした。連載は計10回。最終的に、書ききれなかったエピソードを加筆して、日本経済新聞出版社から書籍になりました(「おまんのモノサシ持ちや!」)。

引き受ける依頼は条件の悪いところばかり

 関わったプロジェクトを成功に導く凄腕のデザイナーとして知られている梅原氏。受ける依頼にもこだわりがあり、農林漁業や田舎に関する依頼しか受けません。しかも、「どちらかというと、小さいもの、都合の悪いものの方が好き」と本人が認めるように、僻地だったり、小さな商店だったり、離島だったり、半島だったり、農林漁業の中でも厳しい条件に置かれているところが中心です。

「小さいもの、都合の悪いものが好き」と語る梅原真氏(写真、宮島康彦)

 あえて条件の悪い場所ばかりを引き受けるのはなぜかというと、その地域の風景を残すため。美しい日本の風景は一次産業や集落の暮らしによって維持されています。その風景を守るためには、風景を形作っている一次産業が経済力を持たなければなりません。そのために、自分の力を使いたいと梅原氏は考えています(「ニッポンの風景をつくりなおせ」)。

 ニッポンの風景にこだわり続ける梅原氏。その足跡は「おまんのモノサシ持ちや!」で詳しく書きました。もっとも、梅原氏の業績は書籍で触れたものだけではありません。現在も地域の資源に光を当てるべく、様々なプロジェクトを進めています。

 「シアワセのものさしの続き」。2回目の今回は島根県益田市の醤油メーカーを取り上げます。この会社が商品化した「煎り酒」。そのパッケージデザインは梅原氏が手がけました。「小さいもの、都合の悪いものが好き」と語る梅原氏の真骨頂のような仕事ではないでしょうか。

(日経ビジネス、篠原匡)

 目の前の醤油皿につがれた琥珀色の液体。試しに小指で舐めてみると、濃厚な鰹のうまみと梅のほのかな香味が鼻腔一杯に広がった。「煎り酒」。島根県益田市の醤油メーカー、合資会社「丸新醤油醸造元」(大賀進社長)が試作した調味料である。

 煎り酒とは日本古来の液体調味料のこと。日本酒にかつお節と梅干しを入れて煮詰めたものだ。室町時代に誕生したと言われており、醤油が普及した江戸時代中期まで、液体調味料として広く用いられていた。梅の塩味がベースの舌に優しい調味料だ。

日本古来の液体調味料、「煎り酒」とは

 この煎り酒の商品開発を進めている丸新醤油は益田市内に得意先を抱える地場の醤油屋である。創業は大正6年。現在では、この地方に特有の甘めの醤油とだし醤油などの加工品を手がけている。醸造所を訪ねると、レンガ造りの古ぼけた煙突と柿色に輝く石見瓦がひときわ目を引く。

 従業員は計8人。醤油単体の売り上げは年4000万円に過ぎないが、地元の固定客に愛されている。かつて日本各地には規模は小さいながらも、地域の味を伝承する醤油屋が存在した。丸新醤油はそんな地域の醤油屋の1つである。

 山陰地方の西端、益田市の小さな醤油屋が煎り酒を作り始めたのはなぜか。直接のきっかけは益田市の有志が進めた「中世の食再生プロジェクト」にあった。

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著者プロフィール

篠原 匡(しのはら・ただし)

昭和50年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。以後、主に「日経ビジネス」の記者として活動している。趣味は競艇と出張、庭いじり。著書に『腹八分の資本主義』(新潮社)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)がある。

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