• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

法人税率を下げても税収は上がる

森信茂樹・中央大学法科大学院教授に聞く「法人税パラドックス」と望ましい税制のあり方

2010年8月5日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 この夏の参院選でも争点の1つとなった消費税。増税は痛みだ。だが、膨らみ続ける社会保障費をまかなうための奇策はない。成長と社会保障の二兎を追うにも、時代に合った制度設計が重要だ。
 所得税の累進税率の引き上げと法人税率の引き下げという、税制改革の論議がかまびすしい。元財務政策総合研究所長で、税制のエキスパートである森信茂樹・中央大学法科大学院教授に、今の日本が置かれた経済社会にふさわしい、現実的な税制改革の方向について聞いた。

(聞き手は日経ビジネス記者、広野彩子)

―― 所得税の累進税率引き上げに反対されていますね。

森信茂樹(もりのぶ・しげき)
1950年広島生まれ、1973年京都大学法学部卒業後、大蔵省入省。英国駐在大蔵省参事(国際金融情報センターロンドン所長)、証券局調査室長、主税局調査課長、主税局総務課長、東京税関長などを歴任。大阪大学法学研究科教授を経て米プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長就任。東京大学法学部客員教授、米コロンビア大学ロースクール客員研究員。2006年財務省を退官しジャパン・タックス・インスティチュート所長、中央大学法科大学院教授。2006年より東京財団上席研究員。法学博士(租税法)。(写真:北山 宏一)

森信 法人税率の引き下げとセットで所得税最高税率の引き上げが議論になっています。税制を考える視点は2つあります。ひとつは望ましい税制とは何かという視点。経済社会の変化に応じて税制がどうあるべきかということです。もう1つは、どの程度の規模の政府をつくるのか、という視点です。

 グローバルに世の中が変化していく中、今の経済社会に望ましい税制作りには待ったなしで取り組まなければいけない。法人税改革が典型的ですね。

 一方、望ましい政府の規模とは、受益と負担をどうするかという問題です。納税者からすれば、サービスの中身が分かって初めて「値段」がつく。例えば社会保障はこんなふうに充実しますよと示され、それを前提に消費税何%であると提示される。それでようやく国民が選択できる。

 税制改革においては、この2つの視点から同時に考えなければいけません。それなのに、議論はいつも消費税率の引き上げ問題に矮小化されてしまうのです。そして結局政治的には消費税の議論ができず、望ましい税制の姿について、この10年全く議論すらせずにきました。

税制の“哲学”を踏まえた現実的な議論をすべき

 国民も例えば日産のゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)のような高給取りに対して増税するのは当たり前という感情に流されている。でも、注意しなければいけないのは、これでは「五公五民」以上になってしまう点です。国家の取り分が国民が稼いだ所得の半分以上になるというのは、近代国家の在り方として妥当か、という議論です。G7クラスの近代国家において、所得税・個人住民税を合わせて50%以上取る国はありません。

 ドイツでは税率を引き上げましたが、45%(地方税はない)です。英国も引き上げたけれど、50%です。米国も国税は36%で、ニューヨークなどの地方税を合わせても50%未満です。ですから、これが50%以上となると、高額所得者は租税回避を模索したり、海外に所得を持ち出す誘因となります。

 租税回避商品というのは山のようにあります。例えば、ワンルームマンションから始まって、かつての航空機リース商品などもそうです。お金持ちはそうしたものをもっと買うようになるでしょうね。そうなれば不公平はもっとひどくなる。

―― 一橋大学の川口大司准教授は、高額所得者の所得税率を上げると、上げる前より仕事をしなくなるのかどうか、前回の税制改正の、税率を引き下げる前と引き上げた後のデータで比べたらどうかと主張されていました。

森信 理論的にはそうかもしれませんが、どうやって比べるのでしょうか。過去、最高税率を引き下げたときの理屈は確かに「高い税率は高所得者のやる気を削ぐ」というものでした。しかしこの論理もなかなか説得力のある実証は難しい。それよりも現実にグローバルな世の中で、利益が海外へ逃避するのを防ぐこととか、公としての哲学、つまり国民の所得の50%以上は取らないという哲学を踏まえた現実的な議論をすべきだと考えます。

 デフレで10年以上企業収益が下がり続けている中で、成功者を罰するような政策をすべきではありません。あまりに安易です。高額所得者は租税回避するので税収は上がりません。今すでに、納税者のうち2.1%程度しかいない課税所得900万以上の人が、所得税額の4割以上をまかなっているのです。国税の限界税率が10%の人が8割を占めています。一方、諸外国では8割の人の税率が20%程度になっています。所得が国外に逃避してしまったら、そのあとの捕捉が大変難しくなる。

―― そうですね。一般に、スポーツ選手の高額報酬は「すごい」と尊敬するのですが、企業の社長が高額の報酬をもらうと、とたんに批判します。

森信 しかし、近代国家の一員としては、そこをぐっと我慢しなければなりません。既に50%も税金を取っているのですから、それ以上取るというのは、私は哲学的に禁断の地へ入り込む感じがします。

「低税率国に本社を移転したら雇用が減る」と国民を説得

―― ドイツでは、付加価値税率を上げてから法人税率を下げるという順番で改革したようですね。

森信 ドイツにとっては税制改革が喫緊の課題でした。EU(欧州連合)が決めた収斂幅のGDP比3%を超えた財政赤字で、罰金を科せられそうな状況でしたから。国民を説得して、付加価値税を上げ、法人税率を下げたのです。企業が東欧諸国やアイルランドといった低税率国に本社を移転したらドイツの雇用が減る。そういう危機感が国民には蔓延していました。もっとも付加価値税を3%引き上げた際、企業負担である失業保険率を1%分引き下げています。増税分を企業に返すので雇用を維持してほしいというメッセージです。

――なるほど、そのようにメリットの部分がないと理解を得るのが難しいですね。日本では消費税について、10%という数字だけが一人歩きしています。

コメント35

「ニュースを斬る」のバックナンバー

一覧

「法人税率を下げても税収は上がる」の著者

広野 彩子

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日本経済新聞社NAR編集部次長

朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者、2013年から日経ビジネス副編集長。日経ビジネスオンラインでコラムの執筆・編集を担当。入山章栄氏の著作『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

韓国がダメでも、日本なら技術を見る「目」が投資家にあるはずだ。

崔 元根 ダブル・スコープ社長