「脱・幼稚者で行こう!」

中国の友人に聞かれた。「なぜ君たちは、自分をかわいそうだと思うのか?」

『現代日本の転機―「自由」と「安定」のジレンマ』の高原基彰氏に聞く

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2010年8月6日(金)

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―― 現在の日本社会には、相変わらずどんよりとした閉塞感が漂っています。『現代日本の転機』は、その理由を、1970年代から遡って分析していますね。キーワードは「被害者意識」ですが、「誰それが悪い」というルサンチマンがみられません。そのため、読後、「爽やかさ」が強く印象に残ります。

被害者意識を外した議論を

高原 この本は韓国や中国に滞在していたとき書いたのですが、外からみていると日本が異様に感じられたんです。若者にかぎらず、日本人は何でみんなこんなに「自分がかわいそう」だと思っているのかなと。

 韓国や中国からすれば「うらやましい!」と思うであろう人びとが、互いに被害者意識をもって言い争っている。だけど、じゃあ政治や経済をどうするのか、という積極的な構想はまったく出てこない。それが「閉塞感」を生んでいます。

 じつは自分でも、この被害者意識は分かるんです。本にそういうことを書きたくなかっただけで(笑)。書くなら「何でそうなってしまっているのか」を自分なりにまとめたかった。それがこの本ですね。

―― 分かる、というのは、30代のご自身の世代経験としてですか? 高原さんは34歳、いわゆるロスジェネ世代ですね。

高原基彰(たかはら・もとあき)
1976年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。聖公会大学校(韓国)訪問研究員、中国社会科学院社会学研究処訪問研究員などを経て、現在東京工科大学非常勤講師。著作『不安型ナショナリズムの時代』(洋泉社・新書y)は、韓国でも翻訳され話題を呼んだ。共著に『若者の労働と生活世界──彼らはどんな現実を生きているか』(大月書店)などがある。
(写真:大槻 純一 以下同)

高原 はい、社会に怨念をもっているとされているロスジェネ世代です(笑)。

 冗談はさておき、ぼくたちの世代は、社会の変動に参加したという意識をもっていない人が多いと思います。たとえば、韓国は社会運動が強いお国柄で、各種NGOなどが草の根レベルにたくさんあって、そこに参加する層というのがつねに一定数います。選挙動員もすれば、大規模デモもする。そういうかたちで、ある種の公共性への回路のようなものがあるんです。

 中国ですら、環境・教育などの分野でNGOが増加しています。政治的自由度は日本などに比べて非常にかぎられているにも関わらずです。ネットを通じた言論活動もどんどん活発化している。

 ところが、日本にはそうしたパッションがないような気がするんですよね。

国際関係が、国内問題の道具にされた

―― 成長期の国かどうか、という差ではないのでしょうか?

高原 もちろん、韓国や中国はまだ今は成長経済ですから、人間でいえば元気な盛りの青年期です。日本は老年期に差しかかっているというのはあると思います。年齢別人口構成をみてもそうですし。それに、いまはいいけれども、労働人口減少や福祉財政などの問題は、10〜20年後には日本より深刻化している可能性もあります。だから、隣国をうらやんでも仕方がないですね。

 でも、そうした事情を差し引いても、日本の事態は深刻だと思います。

―― ただ、高原さんの世代って、右傾化が騒がれた世代ですよね。小林よしのりさんを読みながら、嫌韓・嫌中意識をもって、国家や戦争について熱くなっていた印象があるのですが?

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著者プロフィール

芹沢 一也(せりざわ・かずや)

1968年東京生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。SYNODOS代表。専門は近代日本思想史、現代社会論。犯罪や狂気をめぐる歴史と現代社会との関わりを思想史的、社会学的に読み解いている。著書に『<法>から解放される権力』(新曜社)。『狂気と犯罪』『ホラーハウス社会』(ともに講談社+α新書)、『暴走するセキュリティ』(洋泉社新書)、浜井浩一との共著に『犯罪不安社会』(光文社新書)、編著に『時代がつくる「狂気」』(朝日選書)。高桑和己との共編著に『フーコーの後で』(慶應義塾大学出版会)。監修に『革命待望!』(ポプラ社)。



このコラムについて

脱・幼稚者で行こう!

 「誰かのせいにする。そこで考えを止める」−−我々はつい、こうした「幼稚」な道筋にはまってしまう。そこから抜けて冷静な議論をするには、あらかじめ知っておきたい、考えておきたい材料や課題がある。しかし、それらは研究機関や専門家の中では常識でも、メディアに分かりやすい形で出てくることがなかなかない。
 この企画は、若手研究者をつなぎ、「知のプラットフォーム」を謳うグループ、SYNODOS(リンクはこちら)を主催する芹沢一也氏に、アカデミックの先端で活躍する若手研究者と我々を接続してもらおうというものだ。現代の中で求められる「知」を、くだけた対話によって手に入れ、「幼稚」から脱出する手がかりをつかもう。

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