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「なぜもっと早く降伏できなかったのか」を議論しよう

原爆記念日に考えた日本的二分法の危うさ

  • 竹中 正治

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2010年8月17日(火)

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 8月6日の広島平和記念式典にルース駐日大使が米国の代表として初めて出席したことが話題になった。広島に原爆を投下したB29爆撃機エノラ・ゲイの機長ポール・ティベッツ氏(故人)の息子さんはテレビ・インタビューで、広島の式典への米国代表の参加について、「参加すべきではなかったと思う」と不快感を示したという。

 もっとも原爆投下についてルース大使が謝罪を述べたわけではない。これに対して、日本の被爆者やその遺族・家族らは強い不満を感じているようだ。一方、米国では「参加したこと自体が『無言の謝罪』になるので許せない」という批判が起こっている。ポール機長の息子さんは、同じテレビのインタビューで「原爆投下が戦争終結を早め、多数の人々の命を救ったとして、『当然、正しいことをした』と話したという。

 「原爆投下がなければ、降伏しない日本は本土決戦となり、日米ともに原爆による死者数をはるかに上回る数の死者が出たはずだ。それを避けるために原爆投下はやむを得なかった」

 こういう意見は米国ではむしろ今に至るまで支配的だ。(ちなみに広島の原爆死者数は1945年時点で9万~14万人、累計で約22万人、長崎は累計で約15万人だという)

サンデル教授の「正義」を当てはめてみると…

 この議論に改めて接して、私の脳裏に浮上した1冊の本がある。最近NHKで講義が放映されて日本でも大評判となった米ハーバード大学マイケル・サンデル教授の「正義(JUSTICE What's the right thing to do?)」だ。倫理・哲学分野としては異例の超ベストセラーになった。

 お読みになった方もいるだろうが、「暴走する路面電車」の例が「正しいこととは何か」を考えるケーススタディーとして第1章に登場する。あなたは路面電車の運転手だが、ブレーキが壊れて電車は暴走している。正面方向には線路で工事をしている人が5人いて、電車の暴走に気がついていない。このままなら5人が轢かれて死ぬ。ところが右に線路の待避線があり、そちらでも線路で人が働いているが1人だけだ。

 さてあなたはどうする? 何もせずにまっすぐ暴走して5人を死なせるか、あるいは右の待避線にハンドルを切って1人の死を選ぶか?

 私も大学の学生諸君に実際に問うてみたが、大多数の学生は右にハンドルを切って1人死なすを選択する。やむを得ざる場合は最小限の不幸で済ませるのが正しいという選択だ。

 そこで、サンデル先生は、ケース2を提示する。

 あなたは、その路面電車の線路を見下ろす橋の上に立っており、傍らにはとても太った男が立っている。あなたが彼を橋から突き落とせば、彼の巨体が電車の行く手を阻んで線路上の5人を救えるとする。しかし彼は死ぬ(あなたが飛び降りたのでは小柄過ぎて電車は止められない)。

 あなたは何もしないで5人の死を見るべきか、あるいは彼を突き落として、1人の死を選ぶべきか。この場合、既存の法律などは関係ないとして、正しい選択はどちらか。5人の死か、1人の死かという選択はケース1と変わらない。しかし、ケース1と違って1人の死を選択すべきだという人は一転、極めて少数となる。

 「最初の事例では正しいと見えた原理(5人を救うために1人を犠牲にする)が、2つめの事例では間違っているように見えるのはなぜだろうか?」とサンデル先生は問う。

あれが日本だったら、どのような選択をしたか?

 要するに私たちの社会には「できるだけ多くの命を救うべし」という原則と、「どのような状況であっても無実の人を殺すのは間違いだ」という異なった原則があり、いずれも捨てられない。ところが2つの原則が対立し、私たちが道徳的に板挟みになることがあるという厄介な事実が、提示されているわけだ。

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