環境保護やエネルギー問題の観点から自動車業界はガソリンから電気へと大きく転換しようとしている。しかし、いくら環境保護だ、エネルギー問題対策だと言っても、性能や使い勝手の面で劣っていたのではすぐに電気自動車に買い換えようという気は起こらないだろう。それに対し、電気ならでは特徴に着目し、電気自動車の研究開発に取り組んでいるのが、東京大学新領域創成学研究科・先端エネルギー工学専攻の堀洋一教授である。
前回はそんな堀教授の、電池を持たず、ワイヤレスでエネルギーを補給する電気自動車を紹介した。しかし、堀教授は「電気自動車の真髄は、実はモーターにある」と言う。そこで今回は、現在、堀教授と共同で電気自動車の運動制御に取り組んでいる東京大学新領域創成学研究科・先端エネルギー工学専攻の藤本博志准教授の電気自動車における、モーター制御の研究を紹介しよう。
急加速する電車の車輪が空転してキリキリと音を立てる。急ブレーキをかけた電車の車輪がスリップして火花を散らす――。
映画の中ならともかく、日本の鉄道でこのような光景を見たことがある人はほとんどいないだろう。それがなぜだか不思議に思ったことはないだろうか。ここに、堀教授の言うところの「電気自動車の真髄」が隠されている。
タイヤがもっと細くてもスリップしなくなる
堀教授は語る。「新幹線を考えてみてほしい。レールも車輪も鉄でできていて、非常に滑りやすいにも関わらず、車輪が空回りもせずに、時速300〜400kmで走り続けられるのはなぜか。それはモーターが高度に車輪を制御しているからだ」

それに対し、自動車はゴムでできているタイヤの物理特性を利用して、路面で滑らないようにしている。しかしそのため、路面とタイヤとの間に摩擦エネルギーが発生し、それがエネルギー効率を低下させる大きな原因ともなっている。
堀教授は疑問を投げかける。「クルマはなぜあのような摩擦の大きなタイヤを使って走る必要があるのだろう。タイヤがスリップするか否かは、タイヤの材質や空気圧、路面の状態のみに依存すると思っている人が多いようだが、制御をうまくやればタイヤはもっと細くしてもスリップしなくなる」
電車のエネルギー効率がクルマに比べて格段に高いのは、摩擦が極めて少ない鉄のレールと車輪を使っている点が大きい。それでいて滑らないのは、車輪の回転をモーターでうまく制御しているからだ。
つまり、今後、ガソリン車が電気自動車に置き換われば、電車の車輪の制御技術を電気自動車に容易に展開できる可能性が出てくる。
モーターには電圧、電流、回転速度などの情報を容易に利用することができる大きな強みがある。それを活用すれば、タイヤの制御性能とエネルギー効率を同時に高めることができる。結果、電気自動車は、単に環境に優しいだけでなく、より安全、快適で、操縦しやすい乗り物になるというわけだ。
レールと車輪を「粘着制御」
電車はレールも車輪も鉄でできている。そのため、自動車よりも車輪がずっと空転やスリップしやすい。電車が鉄のレールの上を滑らずに走ることができるのは、車輪の駆動源となっているモーターが車輪の状態を常に把握し、回転を制御しているからだ。
車輪の回転力が大きすぎて空回りしそうになれば力を落とし、ブレーキ時に車輪がロックしそうになれば制動力を落とす。こうした制御をすることによって、本来、滑りやすいレールと車輪の間がピタリと密着し続けるようになる。これを「粘着制御」という。
そのための1つのシステムが自動車でもおなじみのABS(=Anti-lock Braking System:アンチロック・ブレーキ・システム)である。電車のABSは、各車輪に搭載されている車輪の回転速度センサーから送られてくる電気信号を基にスリップを検知する。スリップしたと判断すれば、ブレーキを素早く調整し、正常に回転させるようにしている。
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