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シンジ君、嘆くより理想の社会を考えてみよう

  • 芹沢 一也

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2010年8月26日(木)

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―― 尾崎豊やオウム真理教、「エヴァンゲリオン」まで縦横に使って、わたしたちが「自由」にどんなイメージを持ってきたかを分析する『自由に生きるとはどういうことか』。橋本さんは社会哲学者として、これまで「自由」について、かなり抽象的な議論をなさってきましたが、この本では一転してとても具体的ですね。

橋本 若者に語りかける言葉をもちたいという思いがありました。ですから、よく知られているサブカル的なネタや大衆文化を取り上げて、そこから少し深く自由について考えていくという仕掛けになっています。

 少しだけ近い過去を振り返ってみましょう。東京オリンピックのころ、大松博文という女子バレーの監督の本が大ベストセラーになっています。

―― 1964年の東京オリンピックで、金メダルを取った女子バレーボールチームの監督、「鬼の大松」ですね。

橋本 本の題名は『なせば成る』と『おれについてこい!』。タイトルそのままのスパルタ主義ですが、そこでの自由とは「完全燃焼としての自由」でした。社員が一丸となって高度成長をはたした時代にぴったりだったといえるでしょう。

『なせば成る』から「僕はここにいていいんだ」へ

橋本 努(はしもと・つとむ)
1967年東京都生まれ。96年東京大学大学院総合文化研究科相関社会学専攻博士課程博士号取得。98年から北海道大学経済学部准教授。近著に『帝国の条件-自由を育む秩序の原理』(弘文堂)、『経済倫理=あなたは、なに主義?』(講談社選書メチエ)など。
(写真:大槻 淳一、以下同)

橋本 ところが、70年代から80年代にかけて、経済的に豊かになってくると、管理社会化が問題になりはじめます。社会の抑圧から解放されることが自由となるわけですね。学校的なものから逃れようとした尾崎豊が、そうした自由のシンボルでしょう。面白いことに、そんな尾崎が最終的に行き着いたのは、母なるものへの回帰です。これを受け継いでいるのが、90年代の「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公、碇シンジ君。

―― 問題は「ちっぽけな自分」をいかに肯定するか、になったのですね。

橋本 90年代には、モデルとしての「権威ある父親像」が喪失します。70年代はまだ「権威ある父をいかに乗り越えるか」というのがテーマだったけれど、90年代になると父親はリベラルな、友達みたいになってきますから。そうなってくるときに、子供たちにとって、何が人生の目標、目的になるのかですよね。

 「エヴァンゲリオン」は、物語のウラで「人類補完計画」が進んできて、それが最終的に不発に終わるというお話です。人類補完計画というのは、「大いなるものに溶解して、世界が一体となって新たな生命体へと進化する」ためのもの。グノーシス的ともいうのですか、全体主義的なモチーフというのがあって、弱い自分というものはどうしても、そういった「大いなるもの」に憧れてしまうんです。

 ところが、シンジ君は最後にそれを拒否する。自分はちっぽけな自分でいいんだと、みんなと一体になって溶解することを拒否します。実は、これはまさに自由主義の基礎なんです。どんなに醜く、どんなに卑俗でも、一人ひとりの個人の権利を認めるところが、自由主義ははじまるからです。

―― 同じ自由といっても、時代によって色々だとよくわかります。それでは、わたしたちが生きる現在についてはいかがでしょうか?どうも、冷戦崩壊とバブル崩壊後、新しいモデルをみつけられずに、日本社会全体が迷走している感があるのですが。

橋本 現在の自由とは、創造性としての自由です。1995年、IT革命でビル・ゲイツがでてきますね。彼のような存在は「ボボズ(BOBOS)」といわれます。彼らは60年代に学生運動やヒッピー文化を担っていたため、社会の規律から自由なボヘミアン、つまり「流浪の民」的な生活スタイルをもっています。ところが他方で、資本主義社会のなかでブルジョア的な成功も収めています。ブルジョア・ボヘミアン、略してボボズというわけです。

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