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「自分の子どもを産めない」助産師の“矛盾”

助産師の60代女性と20代女性のケース

  • 小林 美希

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2010年9月6日(月)

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 「お産というのは、うまくいけば『生』の天国、そうでなければ『死』の地獄を見る、常に緊張の続く仕事。ベテラン助産師の存在が必要なのに、どんどん辞めていく」

 ある総合周産期母子医療センターを最近、定年退職した助産師の小倉正美さん(仮名、60代)は、ベテラン助産師の離職を危惧している。それというのも、病院が経営効率化を図るため病棟運営が変わり、助産師の労働環境が悪化しているからだ。もともと少ない産科医に集中する分娩をこなすため、妊産婦の在院日数を短縮化する傾向があるうえ、ベッドの稼働率を上げるための混合病棟化が進んでいる。人員不足から、病棟当たりの人員配置が少なくて済む夜勤の2交代制の導入などが始まり、ただでさえ人手不足の周産期医療の現場で、助産師や看護師の労働密度が高くなっているためだ。

 助産師は正常分娩のみを扱うことができ、妊婦に寄り添い分娩の介助を行う。最近では、病院内で「院内所産所」や「助産師外来」などが広がり、そうした場でも活躍している。産後も、母乳ケアや沐浴(赤ちゃんを風呂に入れること)指導など、助産師による指導が新米ママを助ける。正美さんは「出産後、だんだんと育児に自信がついて母親の顔になっていく女性を見るのが嬉しい」と、助産師の仕事のやりがいを感じてきた。

約17時間に及ぶ夜勤

 ところが、在院日数の短縮化で慌しく入退院の準備に追われ、本来すべき指導が満足にできないまま産婦を送り出さざるを得ない状況になっている。また、自然な分娩を目指す病院や救急搬送を受けることが多い病院では、夜間のお産に対応できるような助産師の人員配置が不可欠となり、苦肉の策として、配置人員の少なくて済む2交代制への移行が進んでいるのだ。

 特に問題なのが2交代制の移行で、2交代制の夜勤の多くは夕方4時頃から翌朝9時頃までの勤務時間となり、3交代でいう準夜勤(おおむね午後4時~午前0時)と深夜勤(おおむね午前0時~午前9時)を一気にこなすことになる。正美さんは「独身のうちの無理が利く間はいいが、子育てしながらや年配の2交代は続かない」と危惧している。正美さん自身は2交代夜勤の経験がないが、同僚のベテラン助産師は2交代に移行したことを機に「体力がもたない」と次々に辞めていった。

 「高年出産が増えて、30代後半や40代での初産も珍しくなくなった。当然、妊娠異常も起こしやすく、丁寧なケアが必要になる。その時、若い助産師が自分より年上を相手に厳しい指導をしづらいこともあるし、母乳指導にしても、障がいを持った子の親のケアも、経験が少ないとできないケースもある。死産などの後の精神的なケアもベテランがしたほうがいい時もある。病院経営にとっては人件費の安い若手が流動して回転したほうがいいだろうが、ベテラン助産師の技術の伝承が難しくなった」(正美さん)。

 辞めていくのはベテランだけではない。10年目くらいに入って中堅となる30代の助産師も仕事か子どもかの二者択一に迫られている。

 30代の子育て中の助産師も「夕方からまるまる次の日の朝まで母親がいなくていいのだろうか」と辞めていく。子どもを夜間に院内保育所に預けられたとしても、夜通し働き詰めで朝、お迎えに行くと子どもは元気で遊びたがる。自分は寝ていないため、子どもの相手をしていると30代だからといって体力も限界になって辞めていくのだ。正美さんも「もし自分が2交代を強いられたら、子育てしながらは続けてこれなかっただろう」と強く感じている。

 正美さんの後輩で子育て真っ最中の助産師は「2人目の子どもが欲しいが、忙しすぎて2人目を作るのに勇気がいる」と嘆いている。分娩室に配属されていた助産師は、働きすぎて妊娠異常を起こし、結果、早産となって子どもには障がいが残ったという。

 そんな後輩たちの姿を見て、正美さんは「自分が妊娠中に出血したら無理をしないで休みなさい」と口うるさく指導してきた。特に夜勤の間は2~3人で病棟を見ることになる。「人手が少なくて夜勤免除を申し出るのは気が引ける」と妊娠しても夜勤を続ける助産師がいると、正美さんは「少ない人数で夜勤をしている最中に自分が切迫流産や切迫早産を起こしたら、結果的に職場に残されたぺアの夜勤相手に迷惑がかかる。だから、最初から夜勤に入らないほうがいい」と説得してきた。

 産む場所である周産期の現場で働く助産師が安心して子どもを持つことができず、妊産婦に指導する立場のはずが自身の健康を守れないで働く現状が、周産期医療の現場にある。人手が足りないと、定年退職した正美さんは、今でも週に何日かは元いた病院に応援に駆けつけている。

不妊治療に通う同僚たち

 別の病院のNICU(新生児集中治療室)で働く助産師の佐藤和美さん(仮名、20代後半)は、「徹夜だと思って夜勤をこなしている」と、毎月7~8回ほどの夜勤に入っている。

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