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サンデル教授に問いたい「搾取」の正当性

進む「財政的幼児虐待」と「民主主義」の欠陥

2010年10月14日(木)

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搾取される若者と財政的幼児虐待

 突然だが、「1億2300万円」という金額をご存じだろうか。この金額は「世代会計」という手法により、いまの60歳以上(1945年生以前)と将来世代(1986年生以降、20歳未満を含む)の格差、つまり「世代間格差」の大きさを推計した結果である(図表)。普通のサラリーマンの生涯賃金を2億円とすると、約6割にも達する格差だ。

 この推計に利用した「世代会計」は、「国民が生涯を通じて、政府に対してどれだけの負担をし、政府からどれだけの受益を得るか」を推計する手法だ。具体的には、「20代」とか「30代」とか「50代」といった世代ごとに、その生涯の受益と負担を推計して、財政のあり方を評価する手法をいう。道路・ダムといった社会資本や、治安・国防、医療・介護といった公共サービスから得られる「受益」と、そのサービスを供給するのに必要な税金、保険料といった「負担」をカウントする。また、この負担と受益の差、つまり「現行政策を前提に、現在世代や将来世代が生涯を通じて支払う「負担」から、生涯に受け取る「受益」を差し引いたもの」を「純負担」という。

 世代会計の「すごさ」は「将来世代の純負担」を“可視化"する点にある。通常、政府が公表する公的債務残高はその時点での債務を表しているにすぎず、この債務だけから、将来世代の “真の負担"は把握できない。政治的には、年金給付の削減や負担増などにより、今の財政赤字や公的債務残高を変化させることなく、負担を将来世代に先送りすることはいくらでもできるからだ。だが、世代会計を用いれば、それらも含めた負担も明らかにできる。

 冒頭に紹介した図表の世代会計は、この実態を浮き彫りにしている。これは内閣府が発表した「2001年度 年次経済財政報告」を参考にしている。横軸は「将来世代」、「20歳代」、「30歳代」といった世代、縦軸は各世代が生涯を通じて支払う「負担」と公共サービスから得る「受益」、あるいは「純負担」(負担と受益の差)である。

 これによると、60歳以上の世代の純負担はマイナスで約4000万円の得(受益超過)、50歳代は約990万円の得(受益超過)がある。それに対して、それ以降の世代の純負担はプラスで、将来世代は約8300万円もの損(支払超過)となっている。

 拙書『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)でも説明しているように、財政はAさんのマネーをBさんに移転する機能を持つ。それゆえ、財政は基本的にゼロサム的な性質を持つ。つまり、誰かが得すれば、誰かが損をする。

 しかも、国債を発行すれば、マネーを世代間で移転することも可能だ。ある世代Aのマネーを搾取して別の世代Bに移転できる。この結果が1億2300万円という世代間格差である。今の財政構造を通じて、将来世代や若い世代は、上の世代から搾取されているわけだ。

 さらに、生涯賃金を2億円とすると、まだこの世に生まれてきていない将来世代は、生涯での手取り賃金は1億1700万円になってしまう。生まれる前から8300万円もの負担を押し付けられているからだ。今の現存世代がこの事実をどの程度まで認識しているかは不明だが、意識的にしろ、無意識的にしろ、一種の「虐待」を行っているといっても過言ではない。

 ボストン大学のコトリコフ教授は、このような実態を「財政的幼児虐待」と呼び、その是正を呼びかけている。まさにその通りだろう。

サンデル教授も「世代間格差」の正当化はできない?

 ところで、ハーバード大学・サンデル教授の政治哲学の講義『JUSTICE(正義)』は、NHK番組の「ハーバード白熱教室」で取り上げられ、日本でも一躍有名になった。そこでは、配分的・調整的な視点から、具体的な事例や学生との討論を通じて、「正義とは何か」についての見解を深めている。

 では、正義の観点から、次の問いにはどう回答することができるだろうか。

 「まだ生まれてもいない将来世代から搾取する、法的、哲学的、経済学的な正当性の根拠は何か? そこに正義はあるのか?」

コメント11件コメント/レビュー

このような搾取は,若年層の反発,それによる政府の瓦解,あるいは,戦争,という,極端な方法でしか解決できないであろう.歴史は,それを示唆している.どうにもならなくなった状況は,破壊的な変革を経ない限り,変わらない.自らが変わることはあり得ない.関ヶ原の戦い,明治維新,第2次世界大戦,こういう大きな変化が無い限り,変わらない.(2010/10/15)

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「サンデル教授に問いたい「搾取」の正当性」の著者

小黒 一正

小黒 一正(おぐろ・かずまさ)

法政大学経済学部教授

1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。専門は公共経済学。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

このような搾取は,若年層の反発,それによる政府の瓦解,あるいは,戦争,という,極端な方法でしか解決できないであろう.歴史は,それを示唆している.どうにもならなくなった状況は,破壊的な変革を経ない限り,変わらない.自らが変わることはあり得ない.関ヶ原の戦い,明治維新,第2次世界大戦,こういう大きな変化が無い限り,変わらない.(2010/10/15)

自分の不利益になることは受け入れられないのが普通でしょうから賛成してくれる人は少ないと思います。子孫の困窮も国の滅亡も知ったことか、という感じではないですか、ほとんどの人が。(2010/10/15)

でも、日本で大きな誤解があるのが、「多数決で少数意見を圧殺」ってのはファシズムの一種で、民主主義が陥りやすい罠の一種であるという事なんですよね・・・これを看過してると民主主義下であるにも関らず虐げられる人々が出てくるし、過去のドイツみたいに民主的にナチス政権が成立したりもするわけです。今の日本は正に若者を虐げるというファシズムが「自己責任」という言葉を着飾ってまかり通っています。選挙権の無かった子供であった彼らが今の社会を作ったわけではありませんから、責任など問いようも無いのですが・・・ 民主主義でも舵取りを誤れば悲惨な事態になるという事例は歴史にいくらでも記録されてますが、日本では「何となく民主主義だから大丈夫」という感覚が見られますね。今は「共産主義独裁政権が出来てしまったのではないか?」と危惧する人も増えてきているんですが、大半の日本人はまだそう思ってないみたいですし。(2010/10/14)

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