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なぜ日本の経済学者はノーベル賞を取れないのか?

一番頑固で厄介な政官学ガラパゴスの砦

  • 竹中 正治

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2010年10月14日(木)

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 海外で働いている先輩系の友人から電子メールで質問された。

「竹中くん、なぜ日本の経済学者にはノーベル経済学賞が受賞できる人がいないのかね? それだけ独創性のある人がいないというのは分かるけどね」

 もちろん、今回のノーベル化学賞での根岸英一教授と鈴木章教授ご両名の受賞に関連しての問いである。

 ちょっと補足しておくと、オリジナルのノーベル賞に経済学賞は存在しない。経済学賞は正式には「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」と呼ばれ、選考は化学賞や物理学賞と同様にスウェーデン王立科学アカデミーが設置する委員会が行っているが、賞金はスウェーデン国立銀行が提供しているそうだ。

「なぜ日本の経済学者は受賞できないのか?」

 そんな質問は、私のような銀行エコノミスト出身の小者ではなく、日本経済学界の大御所、重鎮の先生に向けてもらいたいものだ。しかし自分の貧弱な力量は棚に上げて、この問題を考えてみよう。一言で言うと、過去の日本の経済学が「ガラパゴス的な展開」を遂げて来た結果だと言えるかもしれない。

「体制批判の哲学」に終始した日本の左派系経済学者

 例えば、日本はアカデミズムの世界でマルクス主義が強い影響力を持っていた特異な伝統がある。それが最も強いのが日本の経済学だった。私が経済学部の学生だった頃(1975~79年)までは、学部の教授陣のうち大雑把に半分はマルクス経済学派だった。かくいう私もマルクス経済学派の先生のゼミ生だった。

 マルクス経済学派の99%は当時(今も?)、欧米で発達してきた数理的、実証的な手法には背を向けていた。しかもノーベル経済学賞の基底にある自由主義的なイデオロギーとは異なったパラダイムでやってきたものだから、英語で書かれた論文数の少なさを考慮に入れたとしても、そもそも評価の対象にならなかったのだろう。

 ただし例外的な存在として、ソ連の経済学者でノーベル経済学賞を受賞した人物が2人いる。産業連関表の投入産出分析で有名なワシリー・レオンチェフ(1973年)がその1人だ。ソ連では中央集権的な計画経済(指令経済)を運営するために、必然的に数量的な分析と結果を出せることが経済学に求められたからであろう。一方、日本の経済学者は現実的な経済政策に資する学問よりも、「体制批判の哲学」に終始したと言えば、果たして言い過ぎだろうか。

 私はマルクス経済学の成果を全否定はしていない。また「社会主義経済体制の崩壊(ソ連・東欧)、変質(中国)=マルクス経済学の失敗」とも考えていない。そもそも学問的にはマルクスの経済学は資本主義経済の法則的な理解・分析を目的にしたものであるから、社会主義経済が現実にどう機能するか、しないかとは別のことだったのだ。その上で、現行の市場経済の枠組みを絶対視することなく、遠大な歴史的な発展段階をベースに考える視座は現代の標準的な経済学にはないものだと評価している。

 また、数理的な技法を絶対視したり、技巧的な精緻化ばかりにこだわる近年の経済学の流行に疑問も抱いている(高度な数学は理解できない負け犬の遠吠えかもしれないが…)。しかしその上で、やはり日本のマルクス経済学派の多くが、数理的実証的なアプローチの構築に進めなかったことは大きな欠損と言わざるを得ないだろう。

コメント20件コメント/レビュー

英語による情報発信のコンサルティング会社に勤めている者として、欧米の影響力は低下しているとはいえ、英語による情報発信の重要さについてのご指摘には同感です。人材育成百年の計、、、「国家の計画」には非常に懐疑的なので、せめて留学でも、ノーベル賞を目指すでも、長期的な目標を持てる、将来への不安を払しょくする環境整備に励んでほしいと思います。(2010/10/15)

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英語による情報発信のコンサルティング会社に勤めている者として、欧米の影響力は低下しているとはいえ、英語による情報発信の重要さについてのご指摘には同感です。人材育成百年の計、、、「国家の計画」には非常に懐疑的なので、せめて留学でも、ノーベル賞を目指すでも、長期的な目標を持てる、将来への不安を払しょくする環境整備に励んでほしいと思います。(2010/10/15)

ワシリー・レオンチェフは確かにユダヤ系ロシア人だが、ワルシャワ大学教授時代にナチスの「ポーランド侵攻」に因りアメリカに亡命、ハーヴァード大学で「産業連関表」を完成させた。ソ連体制下でレオンチェフの研究が大成したとは考え難い。レオンチェフはアメリカ人としてノーベル経済学賞を受賞した。未だ日本人ノーベル経済学賞受賞者がいない理由は、日本経済学界が「ソ連崩壊」迄、「近経」(有効需要理論)VS「マル経」の教授会を舞台にした権力闘争に終始したからだ。最悪なのは大学院生の「丁稚奉公化」だ。担当教授の意に沿わない研究をしたのでは博士号も就職先も無い。現在でも日本経済学界では「シカゴ学派」(ホワイト、ハイエク、フリードマン、ルーカス)、ハーヴァード大マーティン・フェルドシュタイン、ミネソタ大トーマス・サージェント(現スタンフォード・フーバー研究所)の経済理論に強いアレルギー症状を示す。旧態化した有効需要理論は、学会と政官財界の連携に依って、日本を一大土建国家にした。純粋な「経済学理論」の議論無くして、日本人の研究にノーベル経済学賞が授与される可能性は永久に無い。(2010/10/15)

日本の経済学者でノーベル賞を取れる可能性のあった人は、森嶋通夫氏か置塩信雄氏ぐらいではなかったのでしょうか。残念ながらお二人とも既にお亡くなりになっていますが。あと経済学を「占い」と書かれているコメントがありますが、経済学は本来は「予想」をするものではなく、過去や現在を分析するために使われるものです。(2010/10/14)

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