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「年金制度」を守って社会保障が破綻しては、意味がありません

『年金は本当にもらえるのか?』の、鈴木亘・学習院大学教授に聞く

  • 芹沢 一也

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2010年11月15日(月)

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年金は本当にもらえるのか?
(ちくま新書)

―― 今回お話を伺うのは、難解だとされる年金制度を、誰でも読めるかたちで説明してくれる『年金は本当にもらえるのか?』の鈴木亘さん。本の帯の言葉が「厚生労働省は真実を教えてくれない」と、とてもセンセーショナルでしたが。

鈴木 10年くらい前までは、年金問題に関しては厚労省サイドの詭弁と正論の両論があったんです。厚生労働省の取り巻きグループと経済学者たちとがいて、これから勉強するという人も、何冊か読めばバランスが取れるような言論状況でした。

―― では、議論をするための環境としては現在の方が悪化しているわけですね。

鈴木 そうです、もう急速に悪化しています。

 実は、以前は厚労省自身ももう少しまともでした。1999年の改革のときに、厚生労働省が『年金白書』を出していますが、この頃はまだ「ちゃんと真実を語ろう」という硬派の官僚たちもいて、わりと両論併記の、バランスの取れた記述がされているんですね。

 ところが、2004年の改正ぐらいから、話がおかしくなってきました。

 マスコミが年金制度批判を一斉にはじめたのですが、それに対して、厚生労働省サイドの人たちが、「とにかく現状には何の問題もない」「年金は安心で絶対につぶれないんだ」ということをいいはじめました。

 そして一般の人びとに向けて、厚労省のバイアスが入った新書や一般書が、急にたくさん出版されました。象徴的なのが、これは去年出版されたものですが、細野真宏さんの『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』。ものすごくミスリーディングな情報が書かれた本です。

鈴木 亘 (すずき・わたる)
1970年生まれ。上智大学経済学部卒業後、日本銀行入行。98年に退職後、大阪大学大学院博士課程前期課程修了、後期課程単位取得退学(2001年に経済学博士号取得)。現在は学習院大学経済学部経済学科教授。専門は社会保障論、医療経済学、福祉経済学。主な著書に『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社、2009年、第9回日経BP、BizTech図書賞)共著に『生活保護の経済分析』(東京大学出版会、第51回日経・経済図書文化賞)などがある。(写真:大槻 純一 以下同)

―― ということは、厚生労働省側には探られたくない腹、隠ぺいしたい真実があるということですよね。その核心は何なのでしょうか?

実際には抜けない「伝家の宝刀」

鈴木 2004年の年金改正のとき、当時の自公政権は、国民に保険料引き上げと給付の大幅カットを飲ませる代わりに、100年先まで積立金が枯渇せずに年金財政が維持されることを約束しました。いわゆる「100年安心プラン」ですが、これはもう財政的に完全に破たんしています。

 ところが、その無理を覆い隠すために、いろいろな粉飾決算のようなことをやっている。典型的には、今後100年近い期間の積立金の運用率を4.1パーセントとして計算し、帳尻を合わせたりしています。

――株価が下がり、「ゼロ金利」の時代に、それはものすごい高利回りの設定ですね。

鈴木 まさにバブル期並みです。今後、100年間バブルが続くという想定です。あるいは、国民のみえないところで、役人がやりやすいようにしたこともある。たとえば、以前は法律で5年に1回、保険料を上げたり、給付をカットしたりして、年金財政の狂いを修正しなくてはいけない法律となっていました。これが安全装置のような役割を果たしていたのです。ところが、2004年改正で、「マクロ経済スライド」という自動的に年金が安定する装置を入れましたなどといって、その法律を削除してしまったんですね。

 マクロ経済スライドというのは、厚労省の説明によれば、少子化等が予想外に進展した場合には、給付カットの幅が自動的に大きくなる仕組みとされています。これは、先に出た細野真宏さんの本にも、「安心・安全の仕組み」として紹介されています。

 しかしながら、この仕組みはデフレ下では全く機能しません。給付カットの伝家の宝刀が、2004年以来、一度も発動されたことが無いのです。このため、厚労省の計画では、本来は積みあがるはずであった積立金がどんどん取り崩されている状況です。

 また、少子化が進んで、例えば来年から日本の赤ちゃんの数がゼロになったとしても、20年近くは、マクロ経済スライドには反映されない仕組みとなっています。そして、20年後にマクロ経済スライドの幅が大きくなったとしても、その頃にはマクロスライドの発動期間が終わっていることになっていますから、結局、何も起こらない。「安心・安全の仕組み」というのは真っ赤な嘘なのです。

 そんなこんなで、これはやっぱり全部、厚労省サイドの議論のおかしな点を暴露した方がいいだろうと、この本を書きました。

「年金は無事でも、社会保障が底抜け」では意味がない

―― 細野さんの話題が出ましたが、彼のように「年金未納」は問題ないという論調も根強いですよね。ただよく読むと、「払った人に払うのだから、制度が破たんしない」という、年金制度としては本末転倒な議論のように思えます。

鈴木 そうそう、問題がないという側にはふたつの主張があって、「掛け金を払ってない人はどうせ年金はもらえないんだから、年金財政には関係ありません」。これが一点。それから、「国民年金の未納問題は、厚生年金や共済年金を合わせた年金全体の中で見れば、ごく一部の問題にすぎない」というのが二点目です。

 これは、テクニカルには正しいんですよ。国民年金に半分の未納者が出ていても、厚生年金と共済年金を加えた被保険者全体の中で見れば5%にすぎない。それ自体は真実だけれども、だから問題はない、とは何だと。会社員、公務員を対象に天引きで掛け金を集める厚生年金と共済年金はそもそも未納があり得ません。国民年金の問題を話しているときに、全体の比率で議論することに何か意味があるのか。

 未納者がいても年金財政に傷はつかない、これも正しいんです。でも、言い換えれば「掛け金を払えない人を、年金では面倒は見ませんよ、あとは知りません」ということになります。

 けれども、国民年金に掛け金を払えない人々は、将来的には生活保護になる可能性が高い。生活保護の対象者が増えれば、それは、社会保障のコストの急増につながります。国の財政全体で考えれば、未納者の増加はゆゆしきことです。

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