まるで宇宙船だ。いや我が国なら建築基準法違反だ。
ここは上半期の経済成長率で17.9%を叩き出したシンガポール。名所マーライオンの対岸に位置するオープンしたばかりのカジノ複合施設、マリーナ・ベイ・サンズは威容を誇る。57階建ての3つのタワーを、屋上200m超の高さにある長さ150mのプールがつないでいる。

私が到着したのは、今年のシンガポールF1グランプリ決勝の前夜。昨年に続き、「ロシア・シンガポール・ビジネス・フォーラム(RSBF)」に日本代表としての招待を受けた。キックオフパーティー(前夜祭)は、ロシア政財界人が大好きなF1グランプリ決勝を、マリーナ・ベイ・サンズのスカイデッキから見下ろしながらのパーティーだ。再来年にはモスクワでF1が開催されるとの噂もある。2500室を超す客室数を誇るこの巨大ホテルは各国からのゲストでごった返していた。エレベーターの中で最も聞こえてくるのはロシア語だ。
リー顧問相の指導力は健在
全長200mのデッキからは、F1グランプリのコースの全容がしっかり見える。決勝戦を見下ろしながら、シンガポール、ロシア、中国、欧米から政財界のリーダーたちがグラス片手に交流を始める。ロシア最大の投資銀行トロイカ・ダイアログのルーベン・バーダニアン会長やロシア最大の商業銀行スベルバンクのゲルマン・グレフ総裁の顔も見える。
決勝レースが白熱した頃に、サプライズゲストが登場する。シンガポールの生みの親、リー・クアンユ-顧問相だ。
マレーシアから分離独立した1965年当時のシンガポールは、ジャマイカとよく比較された。熱帯に位置し、当時の人口は両国とも約180万人でほぼ一緒、面積はジャマイカのほうが約15倍大きい。しかし40数年が経って、シンガポールは今や1人当たりGDP(国内総生産)は4万2652ドルで日本を超えてアジアナンバーワンとなった。一方、ジャマイカの1人当たりGDPは5055ドル。8倍以上の差がついている。
ジャマイカにはリー・クアンユ-がいなかった・・・よくそう言われる。このリー顧問相のビジョンと実行力がなければ、このカジノも対岸の摩天楼もF1レースもなかっただろう。そして、今でもリー顧問相の指導力は健在だ。
ロシアの錚々たるリーダーたちを引っ張ってきたのも、彼なのだ。この前夜祭の1週間前、87歳のリー顧問相は自らモスクワに飛び、RSBFにドタキャンなく来訪するよう主要な参加者にダメ押しの訪問をしたという。その結果、この夜には世界最高のハブ空港と言われるシンガポール・チャンギ国際空港にロシアから14機のプライベートジェットが降り立っていた。
英語が公用語で、機能的なハブ空港を持ち、成長センター・アジアの中心に位置する国際会議誘致大国シンガポールでは連日多くの国際会議が開催されている。昨年は開催数689件とブリュッセル(395件)やパリ(319件)を抑えて、世界ナンバーワンとなった。私も今回4日間の滞在で3つの国際会議でスピーカーを務めた。
シンガポールは中国、インド、ブラジルなど有望な新興国に的を絞り、そこの政財界人と自国の政財界人のネットワーキングの機会を提供している。数多くのそのような会議の中で、前夜祭と会議にリー顧問相が登場するのはこのRSBFだけである。いかに国家として、このフォーラムに力を入れているかが分かる。
昨年もこのフォーラムに呼んでいただき、リー顧問相とプライベートに懇談させていただいたが、1年ぶりの再会のご挨拶に出向くと「よく来たねー。名前はまだタムラか? 世襲じゃないと、ここと日本じゃ総理になれないよ。ナカソネとかタナカとかの名前に変えなさい。ハハハ! どうだい、日中関係は? それにしても・・・」とシニカルに突っ込んでこられる。ちょうど尖閣諸島での事件の直後で、鋭いご指摘をいただいた。
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