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尖閣ビデオ流出、守秘義務違反は問題の本質ではない

誰もが「情報素材」を公開できる環境にどう対応するか

  • 郷原 信郎

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2010年11月16日(火)

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 尖閣列島沖での中国船船長による海上保安部の巡視船への公務執行妨害事件に関するビデオ映像がYouTubeに投稿され流出した問題をめぐって、神戸海上保安部の保安官がビデオ映像を流出させたことを上司に告白し、捜査当局の取調べが行われている。この行為が国家公務員法の守秘義務違反に該当するかどうかをめぐって、専門家の見解が分かれ、捜査も難航している。

 この問題をめぐって混乱が生じている大きな原因は、映像という「情報素材」そのものがインターネット空間ですべての人間に閲覧可能な状態に置かれたという問題であるのに、特定の「事実」としての秘密を漏洩した問題であるようにとらえられ、国家公務員法の守秘義務違反の犯罪の成否の点に報道や社会的関心が集中していることにある。そのようなとらえ方の違いは、この問題を、個人の行為を中心に考えるのか、政府や海上保安庁の組織としての対応の問題を中心に考えるのか、という点にも関連する。

 そして、それらの問題の背景には、物理的に管理することが可能な有体物を個人の意思によって移転するという世界を中心に組み立てられてきた日本の法体系が、物理的な管理・支配が不可能な「情報」を中心とする社会に十分に適合できていないという現実がある。

守秘義務違反の成否は問題の本質ではない

 国家公務員法100条は、守秘義務について「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と罰則の対象としている。この「秘密」に関して、最高裁判例(昭和五二年一二月一九日)は「秘密とは非公知の事実であって実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいい」としている。

 今回のビデオ流出でこの守秘義務違反が成立するかどうかについて、否定する見解は、国会でも一部が公開され国民の多くは事のあらましは大体知っていたことから「非公知の事実」とは言えないことなどを理由とする。一方、違反が成立するとする見解は、政府が外交関係を考慮してビデオを公開しないと決定している以上、そのビデオは「秘密」に該当し、それをYouTubeに投稿して一般人が閲覧可能な状態に置くことは「秘密漏洩」に当たるとしている。前者が「秘密」を客観的に特定された「事実」ととらえている。この場合、ビデオに含まれている「中国船が巡視船に故意に衝突してきた」という事実が公知であるか、保護に値するのか、が問題になる。それに対して、後者の見解は、中国船が巡視船に衝突する場面を含むビデオ映像自体を公開したことを漏洩ととらえている。

 守秘義務違反の成否という国公法の罰則適用の問題としては、法律及び判例の文言からも、「秘密」は「事実」を意味していることは明らかであり、前者の見解のようにとらえざるを得ない。したがって、ビデオで表現されている具体的事実が、非公知であるか、保護に値するかが問題となり、結論としては、守秘義務違反の罰則適用は困難であろう。

 しかし、それは今回のビデオ流出問題の本質ではない。むしろ情報素材としてのビデオが日本国民のみならず世界中で閲覧し得る状態に置かれたことにある。これまで、このビデオを公開するかどうかをめぐって国会等で激しい議論が行われてきたのも、「中国船が巡視船に衝突してきた」という事実を公表するかどうかではなかった(その事実は、既に中国船船長の釈放の段階で那覇地検が公表している)。その状況が記録されたビデオ映像を日本国民や中国国民が見た場合に、それをどう受け止め、どのような印象を持ち、どのように反応するのか、ということを考慮した上での判断であった。

 特定された過去の事実であれば、客観的なものであり、解釈や主観が入り込む余地がないが、映像、音声から構成された情報素材としてのビデオは、視聴する側の事前の認識や主観によって受け止め方は異なってくる。今回のビデオを見て、中国船の動きを「露骨に意図的な衝突」と見た人もいれば「意図的ではあるがそのレベルは低い」と見た人もいるであろう。そのような情報素材としてのビデオの取り扱い、情報管理のあり方について海上保安部の取り扱いや政府の方針がどうであったのか、そこに問題がなかったのかが、今回のビデオ流出問題の核心のはずだ。

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