• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

“理想郷”スウェーデンモデルの内実

企業の国際競争力と手厚い生活保障はいかに両立するか

2010年12月1日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 人口約900万人という小国ながら、世界的な製造小売りのH&M(ヘネス・アンド・モーリッツ)や家具チェーンのイケアなど、国際的に存在感のある多国籍企業を生み出しているスウェーデン。日本人には社会主義的で「高福祉、高負担」のイメージが強いが、実際には資本主義的な企業の競争力強化政策によって個人の生活保障政策が支えられている。福祉の面ばかりが強調され、全体像はあまり知られていない。

 スウェーデン在住10年、ヨーテボリ大学経済学部博士課程の研究者である佐藤吉宗氏は今月、そんなスウェーデン経済の実像を紹介する『スウェーデン・パラドックス』(日本経済新聞出版社)を共著で上梓した。佐藤氏に、スウェーデンにおける産業振興政策と社会保障、そしてそれが実現している生活風土について詳しく聞いた。

(聞き手は日経ビジネス記者、広野彩子)

―― 日経ビジネス11月29日号の特集で、スウェーデン発のファストファッション大手、H&Mを取り上げました。女性が従業員の約8割、長期雇用重視と社員採用における「門戸開放」を両立させ、柔軟な人材登用をしています。それでいて営業利益率20%超え、日本円換算で計算すると付加価値税抜きで1兆3000億円前後の売り上げを実現する収益力は強力です。

佐藤 吉宗(さとう・よしひろ)
2002年京都大学経済学部卒業。2000年よりスウェーデン在住。ウプサラ大学で交換留学の後、2003年スウェーデン・ヨンショーピン大学経済学部修士課程修了。2004年ヨーロッパ安全保障協力機構(OSCE)の旧ユーゴ・クロアチア支部にて研修。現在、スウェーデン・ヨーテボリ大学経済学部博士課程研究生

 佐藤 スウェーデンの労働市場は流動性が高く、転職が多い市場です。そんな中でH&Mやイケアのように「フロアたたき上げ」を実践している企業はむしろ珍しい部類に入りますね。それに、スウェーデンにおける女性の労働力率は高いですが、H&Mの場合はそれでもかなり多いほうだと言えます。

―― もう1つ驚いたのは、従業員が立場や役職問わず自ら「この仕事をやりたい」と周囲にアピールする企業文化が根づいていることです。

 スウェーデンでは、登用や異動にあたり企業は本人の意思を第一に尊重します。例えば、スウェーデン国内3カ所に拠点がある企業があったとします。採用においては本社一括採用ではなく、それぞれの拠点で採用活動をするのが普通です。ですから、働く側が別の場所で働きたい、別の仕事がしたいと思えば、希望を出すか、希望する場所に拠点がなければ辞めて転職していく。

転勤はすべて「本人の意思」から

 先日もある製薬メーカーが、国内3拠点のうち1拠点を閉鎖すると発表しました。会社は労働組合を通じて、別の場所に異動するか、辞めるかを3カ月ぐらいの猶予を与えて選択させるんです。大体、スウェーデンでは共働きが普通ですから、別の場所で働くとなると、配偶者も転職をしなければならないなどの問題が起こりますからね。

 だから社員は、家族で十分に話し合ってから決めるのです。ちなみに子供の教育に関しては、大学まで無償ですし、大学になれば1人暮らしをするための生活補助金まで国が支給しますので、教育コストの心配はありません。

 強いて困難をあげるならば、賃貸住宅に関して、場所によって家賃に差をつけることが制度的に難しいため、慢性的に住宅が供給不足で、家探しが大変ということぐらいでしょうか。ともかく、そうしたことも踏まえて結論を出した本人の意思で働く場所が決まるので、日本のようにトップダウンで「ここに赴任しろ」というのは、基本的に受け入れない風土です。

コメント11件コメント/レビュー

 こういう話題になると耳を手でふさいで「無理無理」と叫ぶのが通例・・・となっている日本が少し悲しい(ここのコメントでは少数意見となっているので少しほっとしているが)。 北欧と日本は条件が違うから無理、とよく言われるが、日本だってここ数年の多くの政権が主張していることは、「産業分野でのより一層の規制緩和とセーフティネットの充実」だから、やっていることに変わりない。日本にないのは、「将来ビジョン」と「自信」で、それゆえに規制緩和はやりかけては止め、の連続で無茶苦茶非効率な状態になっているし、セーフティネットも「施し」の域を出ていない(本来の意味からは外れるかもしれないが、衰退産業の中堅労働者の中流の暮らしを一定期間保障しつつ、彼らを成長産業の担い手に再生するような「セーフティネット」がなければ、衰退産業だろうがなんだろうが労働者は今の仕事にしがみつこうとするだろうし、それでは日本の再生は無理ではと思う)。いずれにせよ、もう少し冷静に情勢把握ができる国民性を持ってほしいもの・・・と少し思ったりもする。 (2010/12/28)

「ニュースを斬る」のバックナンバー

一覧

「“理想郷”スウェーデンモデルの内実」の著者

広野 彩子

広野 彩子(ひろの・あやこ)

日本経済新聞社NAR編集部次長

朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者、2013年から日経ビジネス副編集長。日経ビジネスオンラインでコラムの執筆・編集を担当。入山章栄氏の著作『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』を担当。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

 こういう話題になると耳を手でふさいで「無理無理」と叫ぶのが通例・・・となっている日本が少し悲しい(ここのコメントでは少数意見となっているので少しほっとしているが)。 北欧と日本は条件が違うから無理、とよく言われるが、日本だってここ数年の多くの政権が主張していることは、「産業分野でのより一層の規制緩和とセーフティネットの充実」だから、やっていることに変わりない。日本にないのは、「将来ビジョン」と「自信」で、それゆえに規制緩和はやりかけては止め、の連続で無茶苦茶非効率な状態になっているし、セーフティネットも「施し」の域を出ていない(本来の意味からは外れるかもしれないが、衰退産業の中堅労働者の中流の暮らしを一定期間保障しつつ、彼らを成長産業の担い手に再生するような「セーフティネット」がなければ、衰退産業だろうがなんだろうが労働者は今の仕事にしがみつこうとするだろうし、それでは日本の再生は無理ではと思う)。いずれにせよ、もう少し冷静に情勢把握ができる国民性を持ってほしいもの・・・と少し思ったりもする。 (2010/12/28)

▼なかなか面白く読みました。称賛一辺倒でもなく、しかし学ぶべき点は、きっちりと押さえた解説に好感を覚えました。▼ひとつ、質問があります。私の読み違いでなければ、国内では昇給、増収の機会があまりないということのようですが、勤労に対する意欲の維持に、何か工夫がなされているのでしょうか。また、働く者の側に、所得・贅沢など以外の、所謂生き甲斐と考えられていることが、国民性、あるいは伝統・文化のようなものとしてあるのでしょうか。▼さいごに一つ、言わずもがなと思いつつあえて付言します。オーサーの方のことばに、いま巷で盛んに無反省に使われている「あと、…」という接続語が数度出てきます。私のような年代の者には気になります。やはり「そのほかには」等の従来の言い方の方が落ち着きますが、いかがでしょうか。(2010/12/04)

既に90年代から各所で報じられていることですが、この国の根底にあるのは「自分の人生は自己責任で切り開く(例え障害者であっても)。ただしそのために、完全な機会均等実現も一切の遠慮なく行政に要求する」というコンセンサスであるように見受けられます。また政策の基本理念とし「行政の使命は個人の生活権保障であり、その手段である組織(企業)の存続は自由競争に任せる」という、個人に対する政策と企業に対する政策のメリハリだと思います。日本の行政が学ぶべき点は、何よりもまず、組織(企業)発展を主軸に据えた現状から個人の生活を主軸に据えた発想への大転換でしょう。(2010/12/02)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

リクルートは企業文化そのものが競争力です。企業文化はシステムではないため、模倣困難性も著しく高い。

峰岸 真澄 リクルートホールディングス社長