本連載で議論してきたように、日本国債を通じた日本の資金調達力は依然として存在する。しかし、その限度が市場に意識されてきた。国債が暴落する不安は単純に「狼少年」として片付けられるものではなくなった。世界的にバランスシート調整が続く中、依然として国債残高の増加が続いている。どこかのタイミングで不安が顕現化するリスクを排除することは難しい。このような状況においては、リスクが起きた場合のシナリオに対応するために、コンティンジェンシープラン(危機プラン)を平時から準備しておく必要があるだろう。
国債に関する安定のカギ:3つのC
筆者は、国債を安定させるためのカギを3つのC、「CCC」が担うと考えている。国債の調達がファイナンスであるとすれば、そのファイナンスにおけるカギは以下の「CCC」となる。
Communication | (市場との対話、市場への愛) |
Creditability | (市場に「信用に足る」と思われること、 国債版マニフェスト) |
Coordination | (協調、国債版三位一体) |
Communication(市場との対話、「市場への愛」)
第1のCは、Communication(市場との対話、「市場への愛」)である。日本のように、国債の95%近くを国内の投資家が保有し、その信認を市場が担っている状況では、政府と国内投資家の間の情報交換が必要である。政府は、国内投資家が市場動向を正確に予想するために必要な情報を提供しなければならない。政府は、投資家との対話を通じて、市場が混乱しないよう配慮する――国債の発行年限や供給量を変更する――ことが重要だ。
Creditability(市場に信用に足ると思われること、「国債版マニフェスト」)
第2のCはCreditability(市場に「信用に足る」と思われること、「国債版マニフェスト」)である。市場との対話が「口先だけの議論」では済まされないレベルまで達している。
政府は、市場の信認を得るため具体的・中長期的道筋を示す「国債版マニフェスト」を示す必要がある。それは、「赤字企業」である政府が、資金を供給する投資家に示すことが不可欠な「再建計画」である。そんな政府に対して「融資継続」するための理屈を付けるために市場が求めるものである。
日本の市場参加者は政府に対して、非現実的もしくはドラスティックな改善を必ずしも期待しているわけではない。市場参加者は、政府に対する「融資」を継続することに対して、一定のコミットメントをしている。しかし、「赤字企業」である政府に対して、最低限の改善を行う姿勢、もしくは「再建計画」の策定を望んでいる。これが現在の正確な状況だろう。
既に市場は、政府が適切な改善を実施することを国債の購入方針に織り込んでいる。その期待が裏切られれば、リスクプレミアムが一層、拡大(金利上昇)する危険がある。
Coordination(協調、「国債版三位一体」)
最後のCであるCoordination(協調、「国債版三位一体」)は、金融の側面から不可欠なものである。筆者が日本の国債管理政策のフレームワークとして想定している「国債版三位一体」の国債保有構造は、市場・政府・日銀が協働することで、安定的な国債消化を維持するものである。これが存在しないことが、今日の金融システムの課題でもある。
日本は経常収支黒字国なので、預金を中心とした安定した資金が国内にある。銀行を中心に、金融機関は、国債に依存した運用を行う環境にある。従って、国債管理政策は日本にとって極めて重要な課題である。まさに、国債管理政策を通じて日本の国力が問われている。
筆者は、国債の調達力を「国力」とした。それを維持するために政府は、国債管理において不断の努力が必要なことを忘れてはならないだろう。ここまで国債残高が増すなか、市場と政府の関係は――たとえ「同じ家」、「お父さんとお母さんの関係」だとしても――もはや「何も言わなくても信頼が保たれる」状態ではない。常に「愛している」と言い続けないと維持できない関係にある。そう認識することが重要だ。
貯金率が米国を下回る程にまで下がってるのに、金融資産があるとは思えない。政治家も官僚も怪しい評論家も楽観視しすぎて現実逃避してる。(2010/12/14)