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「社会保障で成長」が画餅である理由~規制と公費投入が、過剰需要を作る

『財政危機と社会保障』の、鈴木亘・学習院大学教授に聞く

  • 芹沢 一也

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2010年12月13日(月)

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―― 社会保障を成長産業として捉える、という発想から、菅直人首相が「強い社会保障」なるものを主張しています。

鈴木 亘 (すずき・わたる)
1970年生まれ。上智大学経済学部卒業後、日本銀行入行。98年に退職後、大阪大学大学院博士課程前期課程修了、後期課程単位取得退学(2001年に経済学博士号取得)。現在は学習院大学経済学部経済学科教授。専門は社会保障論、医療経済学、福祉経済学。主な著書に『だまされないための年金・医療・介護入門』(東洋経済新報社、2009年、第9回日経BP、BizTech図書賞)共著に『生活保護の経済分析』(東京大学出版会、第51回日経・経済図書文化賞)などがある。(写真:大槻 純一 以下同)

鈴木 出発点にあるのは「強い財政」なんです。簡単にいうと、消費税引き上げでまず財源を確保し、社会保障分野に投じよう、ということです。そうするとGDPが拡大して税収も上がる、そうなると社会保障にいく分もさらに増える、となって好循環が生まれる。これが「強い社会保障」という考え方です。

 なぜ社会保障が「強く」なりうるのかというと、待機老人や待機児童が生じていることから、介護や保育には需要がたくさんあるのは明らかだと。ではなぜ、市場でそうした需要が満たされないのかといえば、たとえば介護の場合、介護師の給料が非常に低いためになり手がいないからだ。だから、公費を投じて給料を高くして、需要を埋めてやりましょうという考え方ですね。

―― なるほど、だから医療や介護、保育というのは成長産業だと。

鈴木 そうそう、そこに需要があるからというわけです。

―― 話がうますぎるように思えますが、本当なんでしょうか?

鈴木 経済学的にみて、まったく間違ってます(笑)。

 成長産業というのは、自動車や電気機械、最近だとITとか情報産業などのように、最初のスタートアップのところで公費が使われることはありますが、いずれ自立して、だまっていても勝手に大きくなっていくものです。みんなが欲しがるから、どんどん成長していくと、これが成長産業ですよね。

公費投入が過剰な需要を呼び込んでいる

鈴木 ところが、医療や介護、保育は、公費をものすごく使っています。医療費の4割は公費の補助です。介護で6割、保育にいたっては8割。需要が満たされないほど大きいのは、このように莫大な公費が投入されるからなのです。

―― 公費ががっぽり投入されるから需要が拡大する、というのは…。

財政危機と社会保障』鈴木亘著(講談社現代新書)

鈴木 公費によって、利用者がその場で支払う料金が大幅にディスカウントされるからなのです。安いから、需要過多になっているわけです。

 公費投入の比率は全然低くなる兆しはなく、むしろどんどん高まっています。しかも、医療は少しは新規参入の余地がありますが、介護や保育はもう本当に規制産業。こんな環境では、既存の企業側に自立する動機が生まれるわけがないし、そんな産業が成長産業になりうるわけがありません。

―― 自立へのインセンティブがないわけですね。今回はとくに医療の領域に焦点を当てて、そのあたりの問題点をお聞きできればと思います。昨今、健康保険証を持てない人が増えていると報道されますが、医療保険の現状はどうなのでしょうか?

鈴木 医療保険は職域別になっていますが、自動的に保険料が徴収されるサラリーマンには大した問題はありません。問題は国民健康保険です。なぜかといえば、国保は未納が可能だからです。現状、7~8パーセントの方が未払いです。

 ただし、行政としては保険を提供しないことは法律違反なんです。国民皆保険という原則をとっていますから。一年以上滞納した人には、「被保険者資格証明書」を出すことになりますが、これは病院の窓口で全額10割払わないといけないんですね。あとで7割還付するということになっていますが、実質は無保険の人たちだといってよい。

 それから「短期被保険者証」というのがあって、これはとくに子供がいる世帯に交付するものです。有効期間は6カ月。短期で証明書を交換させて、その都度、保険料を払うように迫る。病院で普通に使えるのですが、でも日本みたいに恥の社会だと、そんな医療保険証を持って病院に行けないわけですよ。子供が熱を出したというときには使われますが、親はそれを使わないので、こういう人たちも実質的には無保険者に近いんですね。
(政府公報はこちら

―― 7~8%という数字は深刻な数字でしょうか?

鈴木 わたしは深刻だと思います。というのは、本当に貧困な家庭であれば生活保護になるので、医療扶助で全額払ってもらえるようになります。つまり、保険料滞納者というのは、生活保護までのあいだのエアポケットみたいなところにいる人たちです。これが7~8パーセントというのはかなり問題です。しかも、国保(国民健康保険)の側には、こうした人たちを放置するインセンティブがあるんですね。

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