「守るべき弱者はどこにいる?」

定職を持たない働き盛りが見る未来

非正規雇用の30代男性のケース

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2011年1月24日(月)

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 「正社員にこだわりたかったが、諦めた」

 木下恭介さん(仮名、39歳)は40歳を目前にして諦めモードに陥っている。恭介さんは一度は正社員として、英語の塾講師として働いた経験がある。しかし、長時間労働によって28歳で自律神経失調症となり、いったん塾講師を辞めた。1年後、「そろそろ社会復帰しないと仕事が完全にできなくなる」と、残業のない派遣社員で事務の仕事を再開した。

 その頃は今のように超就職氷河期と言われ始めた2001年。派遣で仕事に慣れてきて正社員の職を探しても、なかなか見つからない。新卒でも厳しい中で30歳となった恭介さんの転職は困難を極め、そのまま派遣社員として働き続けた。

 ただ、派遣契約が途中でも契約を打ち切られるなど不安定さを感じ、いつか正社員になりたいと思っていた。

希望の職種は非正規化が進む

 語学力を活かした仕事を探していたが、派遣のニーズはあっても、正社員の仕事が見つからない。正社員の職を探すと、営業など残業が避けられない職種が多かった。

 希望を持てたのは恋人の存在だった。結婚するためと、正社員にこだわり、中小広告会社の営業職に就いた。そこでは、塾講師時代以上の激務が待っていた。きつい営業ノルマで毎日が終電帰り。年収320万円で、残業代は出ない。

 ストレスから胃潰瘍になった。次第にうつ傾向になり、1年後に広告会社を辞めた。そんな恭介さんの様子に将来の不安を感じ、恋人は恭介さんの元を去った。

 しばらく放心状態が続いた恭介さんだったが「30代前半の今ならまだやり直せる」と自身を奮い立たせ、派遣社員として働きながら正社員の職探しを続けた。いつか誰かとまた出会い、結婚したい。その時には安定した職に就いてなければ女性側の理解が得られないと思っていたからだ。

 アクサ生命が2010年2月、30〜40歳前後の独身女性600人に実施した「オトナの女のリスク実態調査」からは、結婚相手に手堅い“安定”を求める様子が見えてくる。この調査によると、結婚相手の条件は、1位「価値観」(61.8%)、2位「金銭感覚」(27%)、3位「雇用形態の安定」(26.3%)の3Kとなっている。バブル期に「高収入」「高学歴」「高身長」と言われた3Kは、それぞれ9位、19位、20位とすっかり影をひそめ、女性の現実志向が伺える。

 雇用の安定を求める恭介さんだったが、事務職は非正規雇用化しており、正社員の営業職は労働時間が長い。恭介さんは長く続けられる職種に就けるよう、職業訓練を受けようかとも考えたが、経理などはやはり非正規化している。かといって、正社員雇用の可能性が高いシステムエンジニアなどの分野は長時間労働を余儀なくされる。

 「これでは八方塞がりだ」と、頭を抱えた。それでも求人を見つけては採用試験に足を運んだが、スキルを問われ不採用となる。非正規雇用でいた期間の長さが、不利になっていた。

 最近では、再び新卒採用が超就職氷河期になったせいか、恭介さんは「派遣の仕事も若手に持っていかれる気がしてならない」という。正社員登用の可能性がありそうな条件の良い派遣先が回ってこなくなった。先の見えない状況に、恭介さんは正社員を諦めるどころか、無職になる覚悟を固め始めている。

直接雇用の申し出を断った理由

 「正社員って一体、何なのだろうか」

 フリーター生活やバイク便会社の起業などを経験しながら、日雇い派遣を収入の主な糧にし始めて3年半あまり。石田健司さん(仮名、30歳。「正社員より派遣、派遣より独立」参照)は、直接雇用の申し出を断り、日雇い派遣社員のままでいる。

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著者プロフィール

小林 美希(こばやし・みき)

労働経済ジャーナリスト。1975年茨城県生まれ。明治学院大学中退、神戸大学法学部卒業。株式新聞社、毎日新聞社エコノミスト編集部で記者として働く。2007年2月よりフリーになり、若者の雇用、出産・育児と就業継続などのテーマに取り組む。主な著書に『ルポ 正社員になりたい ――娘・息子の悲惨な職場』(影書房)、『ルポ “正社員”の若者たち 就職氷河期世代を追う』(岩波書店)



このコラムについて

守るべき弱者はどこにいる?

「派遣切り」「名ばかり正社員」・・・。日本の労働環境の悪化に伴う雇用不安が人々の生活を脅かす。社会がきしみ、変化に揺れている中で今、何が必要なのか。個々の働き方や生き方を通して、国、企業、個人ができることは何かを探っていく。

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