いつまでも私の記憶の中に残っている美しいテレビCMがあります。
例えば1987年、猿がヘッドフォンで音楽を聴きながらウットリとしているソニーWALKMAN(ウォークマン)。1983年、何気ない街や自然の中にただクルマを置き、ルイ・アームストロングの名曲「この素晴らしき世界『What a Wonderful World』」とオーバーラップさせたホンダ・ワンダーシビック。壮大なボレロの音楽とともにクルマがゆっくりと登場するホンダ2代目プレリュードなど。とてもシンプルでありながら、見ている人の心に突き刺さるようなメッセージが込められていたCMでした。
「もの」と「人」の関係が現在よりもずっとシンプルであった時代の、人に感動を与えるテレビCM。そこにはCG(コンピューターグラフィックス)合成もなく、手でアイデアを創っていた時代です。時間も手間もかかっていた分、その効果はダイレクトにこころに伝わってきていたのではないでしょうか。80年代のテレビCMには何か文化が漂っていたように思います。それまで欧米のまねごとだと言われていた時代を抜け、日本独自のユーモアとセンスが磨かれ、発揮され始めていたような感覚がありました。
バランスが欠如した「現象社会」
それから30年近い月日が経ち、猛烈なスピードで走り続けてきた日本の最近のテレビCMはどうでしょう。私にはどうしても理解できないいくつかの傾向があるのです。
| ・ | 子供向け商品ではないにもかかわらず、子供が登場して商品説明をする。 |
| ・ | 複数の人間やキャラクターが奇妙な踊りをしながら商品名を連呼する。 |
| ・ | 静かな感動にはほど遠い、耳をふさぎたくなるような音、音楽、もしくは歌。 |
このようなCMは、いったい誰に向けて創られているのでしょうか。本当に商品や企業のイメージアップにつながっているのでしょうか。日本が本来あるべき本質的な何かを失い、バランスの欠如した「現象社会」になってしまっているということが、テレビCMからもうかがわれるのです。現象の渦の中に巻き込まれた人々は、奇妙なCMを奇妙とも思わなくなっているのかもしれません。
日本は世界でも有数の「幼稚社会」なのではないかと思います。
ギャルからいい年をした大人までが何を見ても「かわいい」を連発する社会。「実年齢よりも若く見られたい」「いつまでも若々しくありたい」という願いはともかく、それが「幼稚化」につながってはいないでしょうか。中・高齢者までもがメディアに振り回され、他愛もない流行に乗って喜んでいる状態。子供のことを思うがあまり、子供目線で物事を考えているうちに大人までも子供になってしまっているような感覚です。
「カッコいいって何だろう?」
テレビCMやそこで宣伝されている商品の多くが、大人向けのものであるにもかかわらず子供向けのような表現がされることが当たり前になっています。それをおかしいと感じないとしたら、CMや商品を創っている側も、消費者側も「幼稚な大人」なのだろうかと思わざるをえません。この社会から、日本が本来持っていた「美意識」、センスが失われつつあるように感じます。
「美しい」は「かわいい」「おもしろい」と入れ替わってしまっており、そのように形容されるものは決して長期的に大切にされることなく、新しいものの登場と入れ替わりにゴミとなってしまいます。まるで小さな子供がすぐにオモチャに飽きてしまうかのような消費社会。私たちは大人にならなければいけません。
最近あるカーデザイン賞の審査員をしたときの出来事です。受賞したクルマのデザインを担当した若いデザイナーは、インタビューにこのように答えていたのです。「とにかくカッコいいデザインを目指しました」。それはとても素直なコメントではあったのですが、ふと考えてしまいました。
「カッコいいって何だろう?」と。
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デザイナー、SWdesign TOKYO代表、Audi Design Partner。1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。シニアデザイナーとして、初代セフィーロ(88年)、初代プレセア(89年)、セフィーロワゴン(96年)などの量販車を担当した。89〜91年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。日産勤務時代最後の作品として電気自動車のハイパーミニをデザインした。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。シニアデザイナー兼クリエーティブマネジャーとして、現行のA6、Q7などの主力車種を担当した。アウディのシンボルとも言えるシングルフレームグリルをデザインし、その後「世界でもっとも美しいクーペ」と評されるA5を担当した。そのほかAudi Pikes Peak Quattro、Audi Avantissimoなどのショーカーも担当した。2009年6月アウディから独立。自身のデザインスタジオ「

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