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経済活動をリードする人材を失った20年

【最終回】誰が社会保障を担うのか

  • 小林 美希

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2011年2月7日(月)

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 守るべき弱者はどこにいるのか――。連載全29回のなかで、27回に渡って個別の例から探った。

 弱者とは、目に見える失業者や、不安定な非正規雇用だけではない。企業で働く者のほかにも、社会保障を担う医療や福祉の分野で働く人材の問題を忘れてはならない。それは、一般の企業と違って、戦う相手が経営者だけでなく、働き方を大きく左右する制度設計を行う国も、戦う相手となるからだ。人を産み出すことを手伝う産科医や助産師、人を育てる保育士、人を支え看取る看護職や介護職など、もっと目を向け守らなければならない労働者は決して少なくない。

 長引く就職氷河期に20~30代の若者の雇用は弱体化し、自身を支えることもできなくなった。それで経済が支えられるはずがない。

 この状況を乗り越え、次世代を育もうとすれば、「仕事か妊娠・出産か」「仕事か子育てか」の二者択一に迫られ、雇用が奪われていく。先に挙げた社会保障を担う人材を守ることは、こうした世代を守ることに直結し、それこそが日本の基盤を強くするのではないか。

雇用問題を先送りしてきた

 春闘のシーズン、日本労働組合総連合会(連合)は給与総額1%上げを掲げているが、日本経済団体連合会(経団連)は、「賃金より雇用」と難色を示している。2010年12月の有効求人倍率が0.57倍(正社員に限っては0.38倍)という現状では、それもやむを得ないかもしれない。

 しかし、経営側が「国際競争力」という言葉を盾に労働条件の改善を回避してきたことは、目先の利益しか追わず、将来を見通す経営の力を落としてきたことを意味する。彼らの言う「国際競争力」とは、人件費などのコストが安い発展途上国を指しているに過ぎない。

 結果、海外に進出した地域の最低賃金が上昇すればほかの地域に移っていく「国際流浪」を余儀なくされている。そうしてずるずると問題を先送りしてきた「失われた20年」というものは、イコール「経済活動をリードしてゆける人材を失った20年」とも言い換えられ、日本の大きなウィークポイントとなり、取り返しのつかないところにきているのではないだろうか。

 「雇用、雇用、雇用」と三唱する菅直人首相の下、労働者派遣法を強化する法改正について議論されている。しかし、経済が浮揚しないままでの純粋な雇用創出は難しく、ここまで非正規雇用についても野放しにしてきた。突然に派遣の規制強化をしても逆効果となるだろう。企業は「正社員」の採用に消極的になり、不況でも生き抜くために法の網の目をくぐるような“偽装雇用”が増えるだけだ。

 いったい、どういうことか。アルバイトやパートといった非正社員でも、一定の条件を満たせば社会保険の加入が認められる。派遣社員であっても、同様に派遣元に社会保険の加入の義務が生じる。どちらにせよ、雇用主が明確なために、トラブルが起こった場合でも、法的な救済を求めやすい。すなわち、法規制の強化によってセーフティネットは張られる、と考えがちだ。

 しかし、実はすり抜ける手段が残されている。業務請負契約など個人事業主扱いで働くケースだ。この場合、個人で国民年金と国民健康保険に加入しなければならなくなる。逆に言えば、雇用保険には加入できないため、失業した時に社会保障の網の目から抜け落ちてしまう危険があるのだ。こうした形態の雇用が増えないという保証はどこにもない。

 さりとて、「雇用の硬直化が若者などの就業チャンスを奪っている」として規制緩和を唱える“有識者”の意見にも不安を覚える。こうした人々には人材ビジネス業界に近い者も少なくなく、それは規制緩和によって恩恵を受ける利益誘導型ともなりかねないからだ。

 景気が後退すると、労使の力関係は明白となり「嫌なら辞めろ」という現象が蔓延する。元来、正社員であっても解雇に追い込まれやすく、優秀な人材はキャリアアップのため容易に転職をするのだから、雇用はもともと流動化している。企業側の本音は「うつ病になった社員や、仕事をしない社員を雇い続けたくない」というものが少なくないが、それは個別の査定などで対処すればいい話のはず。経営者にとって都合の良い規制緩和を行えば、失業者が増えるだけだ。

 不安定な雇用しか生み出せない企業が増えたことは、「ゴーイング・コンサーン」という、企業は永遠に続く「継続企業の原則」がもはや崩れたと言ってもいいのではないか。そのような企業の集合体である日本経済に未来はない。企業が何十年先も存続している、ひとつの企業で定年まで働くということを前提とした社会ではなくなった。

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